ブックタイトル森林のたより 746号 2015年11月

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概要

森林のたより 746号 2015年11月

-孫は可愛い、カブトムシ-【第292回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraなんでこんなに可愛いのかよ孫という名の宝物……これは15年前に流行った「孫」という歌謡曲である。私はこの歌が大好きで、今でもよく口ずさむ。たしかに孫は可愛い。「おじいちゃん、おじいちゃん」とまとわりついてくる孫。理屈抜きに可愛い。つい抱きしめてしまう。まさに宝物だと思う。今年の夏である。5才のY君が「おじいちゃん、カブトムシとクワガタムシを採って」と頼みにきた。友達が飼っているので、自分も欲しいのだという。「わかった。おじいちゃんがたくさん採ってやるよ」と即答。これを聞いていた女房がひと言。「そんなことを約束していいの」「大丈夫だよ。俺は虫プロだから」と女房の言葉を一蹴。これには裏付けがあった。昨年の夏、近くの伊木山で何匹も見ているので、ここでバナナトラップを仕掛ければ簡単に採れると思ったからである。7月中旬、その伊木山へ出かけた。××××バナナトラップはバナナでカブトムシやクワガタムシを誘き寄せて採る方法である。しかし、設置場所が悪いと採れないこともある。「採れますように」と神様に祈りながら作業にかかった。以下、その経緯。まず、頂上近くのコナラの幹にバナナを8本くくり付けた。それを毎日見に出かけた。バナナは1週間ごとに取り替えた。しかし、いない。5日経っても来ていないのである。Y君の悲しむ顔が目に浮かんできた。焦ってきた。それが、7日後に大きなカブトムシのオスが来てバナナを食べていた。「おった!」胸が躍った。ところが、来たのはその日だけ。その後はまた来なくなったのである。しかし、バナナにはカブトムシの食べ跡があった。これは夜にバナナを食べ、朝になると姿を隠すからだと思った。そこで、コナラの根元部へ落ち葉を大量に積み上げ隠れ場所を作った。食べ終わると、この中へ身を隠すと考えたからである。これが正解だった。その後は、行く度に落ち葉の中からカブトムシが数匹採れたのである。Y君は大喜びで毎日カブトムシを数えていた。「これで○○匹だよ」とカブトムシを渡す度に嬉しそうに報告した。そのうちに20匹になったので、採るのをやめた。しかし、残念ながらクワガタムシは1匹も採れなかった。××××カブトムシはY君が管理した。毎日餌を与え、飼育している容器が乾燥しないように中に水を入れながら、カブトムシを見て楽しんでいた。カブトムシの世話で満足しているY君。その真剣な表情から、クワガタムシのことは頭にないだろうと思った。しかし、違った。カブトムシに飽きてきたのか「おじいちゃん、クワガタムシは採れないの」と言い出したからである。この一言はこたえた。Y君との約束をはたさなければならない。私は困ってしまった。頭をかかえているとき、旧徳山村ブナ林の自然探索会があった。ここで私はブナ林を代表するヒメオオクワガタの話をした。このクワガタムシは非常に珍しく、私自身50年間で5,6匹しか採っていないと説明した。その時、参加者の一人が、「これですか」と黒い虫を差し出した。見るとヒメオオクワガタのメスであった。「なんで、この人が」と驚いた。私はその場所へ行き、付近を必死に探したが、何せ珍品。採ることは出来なかった。悔しかった。この姿を哀れに思ったのか、その人は「どうぞ」と言ってそのヒメオオクワガタを差し出された。久しぶりに手にしたヒメオオクワガタ。よい感触であった。しかも、これでY君との約束がはたせると気が楽になった。××××ところがY君。ヒメオオクワガタムシを見るなり「こんなクワガタムシは嫌い。大きな牙のあるのが欲しい」と言い出した。Y君はオスがほしかったのである。「ごめん、今年は駄目だけど、来年は大きな牙のあるクワガタムシを採ってやるから」とその場をしのいだ。8月下旬、Y君が悲しそうな顔をして「カブトムシが5匹も死んだ」と言ってきた。私はカブトムシの寿命が来たのだと思った。一般にカブトムシの寿命は1ヶ月くらいで、8月下旬にはいなくなると言われている。確かにお盆を過ぎに野外で見たことはほとんどない。残りのカブトムシもあと数日の命か。Y君が悲しむだろうなと思った。カブトムシは▲9月末でも元気なカブトムシのオス次々と死亡していった。それでもY君は餌を与え続けた。そのせいか9月になっても何匹かは生き続け、9月28日を過ぎてもオス3匹とメス1匹が元気なのである。4匹とも食欲があり動き回っているので、10月までは間違いなく生きるだろう。今は1日でも長く生きて欲しい。そんな思いだ。これはY君の小さな愛情がカブトムシに通じたからだと思った。それにしても、カブトムシがこんなに長生きするとは驚きであった。Y君の好きなカブトムシは強くて頑強だ。誰からも好かれ、それに強い生命力である。そのカブトムシのようにY君も育って欲しいと思った。そのうちに「孫」の替え歌が脳裏に浮かび、つい口ずさんでしまった。強く育てよカブトムシのようにたくさん食べて大きくなって人にやさしく誰にも好かれる……MORINOTAYORI 14