ブックタイトル森林のたより 748号 2016年01月

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概要

森林のたより 748号 2016年01月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹コウヤマキⅡ125▲木曽の五木(上左よりヒノキ、サワラ、アスナロ、下左からコウヤマキ、ネズコ)開創1200を迎えた高野山、816年に弘法大師空海が密教の道場を開いた高野山周辺では、お正月にはコウヤマキを供えます。コウヤマキは人が植えたものであれば、北海道庁前や北海道大学の構内にもあり、青森県むつ市や八戸市にも樹齢300年生の個体が育っています。しかし天然分布となると、北は福島県(北緯37°37')のみで関東地方には分布しておらず、飛んで長野、岐阜、愛知、三重、和歌山、高知、徳島、山口、最後に南は宮崎県(北緯32°05')と断続的に隔離分布しています。日本で最も古い書物の一つである『日本書紀(720年)』には、スサノオノミコトが尻(かくれ)の毛を抜いて空中に放つと槇(まき)になったと記されています。この「槇」とはコウヤマキのことで、日本書紀の中では、その利用方法として「寝棺(棺桶)をつくれ」と記されています。コウヤマキは2006年(平成18年)9月6日に誕生された、秋篠宮家の悠仁親王殿下の「お印」としても知られています。「お印」とは皇族の方々が持ち物に名前を書く代わりにつけられるものです。また林業関係者には有名な言葉に「木曽の五木」があります。これは江戸時代の木曽地方で、資源保護のため伐採を規制した停止木(ちょうじぼく)として定められていた、ヒノキやサワラ、アスナロ、クロベ(別名ネズコ)、そしてコウヤマキのことです。コウヤマキの木材にはセスキテルペンアルコール類のセドロールやセドレンが含まれ、柑橘類のライムのような甘い特有の匂いがあり、木材としてはヒノキよりも水湿に強く耐久性があって黒ずみにくく、シロアリに対する抵抗力(耐蟻性)が強い特徴があります。加工面でも、節(ふし)があっても切削加工や乾燥が容易なため、人によっては「水を含んでも軽く、ヒノキに近い気品と色つや、強度があり、サワラのように水に強く、軽い」と評価しています。シロアリ被害が多い暖かい地域や沖縄などでは、80年生以上のものが建築用材や土台、床下材、ウッドデッキに利用されています。さてスサノオノミコトの説話にあるように、昔は高級な棺や水桶、橋杭などの材料として多く使われました。古墳時代前期の前方後円墳の竪穴式石室に安置された大きな木棺の多くは、コウヤマキの巨木の丸太をくり抜いた舟形木棺、割竹形木棺であったのです。そしてコウヤマキはスギ同様に、日本固有種であるにもかかわらず、4~7世紀に朝鮮半島で栄えた百済の歴代王の棺材(21例中20例)にも利用されていました。これは腐りにくいコウヤマキを使って遺体を保護し、損傷を遅らせることで、死者を再生させる(蘇らせる)ことにつながると考えていたからです。MORINOTAYORI 4