ブックタイトル森林のたより 750号 2016年03月

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概要

森林のたより 750号 2016年03月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ツバキⅡ127▲花を天ぷらにした料理前回に引き続き、ツバキの話をします。ツバキは木偏に春「椿」と書きますが、これは日本原産のツバキが早春に花を咲かせるため、漢字に倣って日本で作られた国字と考えられています。その春を予感させるツバキの花は観賞するだけでなく、宮崎県や伊豆諸島などでは天ぷらなど料理にも利用されます。以前、宮崎市のこどもの国という施設に行った時のこと、品種は限られますが天ぷらにできる品種の花があるからと、花をツバキ油で天ぷらにして食べさせていただきました。さて花について見てみると、ツバキやその近縁のサザンカは、雄しべと雌しべの付け根に蜜がたくさん溜まっているため、子どものころに蜜を吸って遊んだ記憶がありませんか。冬から春にかけて、メジロやヒヨドリはツバキやサザンカの蜜を求めて訪花するため、ヒヨドリには「ハナスイ」の別名があるほどです。これらの花は昆虫の活動が少ない冬に、花粉や蜜を交換条件に鳥に受粉を頼っている鳥媒花です。この鳥媒花が生き残る条件として、第一に鳥が活動する昼間に開花すること、第二に鳥の胃袋を満たす大量の蜜を分泌すること、第三に鳥に認識される鮮やかな赤色であること、が重要です。ところでツバキの花と椿油で有名な伊豆諸島、その中でも北部に位置する利島(としま)は、島の緑の約8割がツバキとされ、椿油の生産量日本一を誇っています。伊豆諸島では当然、ツバキの実を搾って得られた椿油を頭髪油や食用油として特産化していますが、今では関取などの髷結いや、歌舞伎役者の舞台化粧の下塗りに利用される程度になってしまいました。ツバキの油としての利用の歴史は古く、前回紹介したように平安期の『続日本紀』には、中国の渤海国に灯用、薬用、化粧用に椿油を贈り物にしたことが記されています。椿油は植物油脂の中でも、特に酸化しにくく、精製油は人間の皮脂成分に近いと言われます。一般に「油は乾きにくいもの」とお考えの方も多いでしょうが、木工などで使われる荏油(エゴマの油)や桐油(アブラギリの油)、またクルミ油は乾燥しやすい「乾性油」です。これに対して椿油やオリーブ油などは、ほとんど乾かない「不乾性油」です。不乾性の椿油は、薄くのばして空中に放置しても乾燥せず、髪や肌での効果が持続します。普通の油は空気中に放置すると酸化して品質が落ちますが、椿油は植物油脂の中でも最もオレイン酸(油酸)が多く、リノール酸が少ないため、酸化しにくいのです。また、椿油は紫外線(UV)B波を透さないため、日焼け対策に有効なオイルとされます。紫外線(UV)のうち、波長域が290~320ナノメートルのUV-B(B波)は海水浴などで赤く焼け、ヒリヒリするサンバーン(皮膚炎症紅班)を起こし、椿油はこれを予防するのに役立ちます。MORINOTAYORI 4