ブックタイトル森林のたより 751号 2016年04月

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概要

森林のたより 751号 2016年04月

-琴奨菊の奥様、ヒメシロチョウ-【第297回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira国技とよばれている大相撲。私は大好きだ。いろいろな力士を応援してきた。その一人が元横綱北の湖である。引退後は相撲協会役員から理事長に就任。協会運営や改革に取り組んでいた。それが平成27年九州場所中に急逝された。志半ばでの死。無念だっただろうと思う。かつて憎らしいほど強い横綱と呼ばれた北の湖。その雄姿が脳裏を去来した。それでこのシリーズ(№295)に原稿を書いて北の湖を追悼した。その中で、大相撲に対する私の思いを述べた。最近の大相撲は外国人力士が主役で何か物足りない。それと、この10年間日本人力士が優勝していないこと。これがさびしい。おそらく北の湖理事長も同じだっただろう。出来れば自分の手で日本人の優勝力士に賜杯を渡したかったのではないか。こんなことを思ったら、早く日本人力士の優勝を見たい。出来れば次の場所(平成28年初場所)で。こんなとても実現できないような夢みたいなことを願ってしまった。でも、正夢ということもある。ひょっとしたら…。こんな期待も抱いた。××××その初場所がやってきた。優勝は白鵬。次が日馬富士で大穴が照の富士のモンゴル勢。これが私の予想であった。本来なら日本人の3大関も候補に挙げたいのだが、それは無理。プレッシャーに弱いとか、クンロク(9勝6敗)大関と呼ばれているからだ。力士の闘いが始まった。やはり白鵬は強い。8日目で早々と勝ち越し。予想どおりだ。意外だったのは琴奨菊。彼も全勝だったのである。しかし横綱との対戦が残っている。やはり白鵬の優勝だと思った。ところが大番狂わせがあった。琴奨菊が3横綱を倒して優勝したのである。館内は騒然となり、座布団が飛び舞った。日本人力士の優勝だ。琴奨菊、おめでとう。優勝賜杯を受ける琴奨菊。錦絵のようで、絵になる光景であった。このとき、次の題材は琴奨菊にしようと決めた。ところが該当する虫が浮かんでこない。しばらく考えたけど決まらなかった。その夜である。テレビに琴奨菊が奥様と一緒に出ていた。小柄で清楚な美人であった。一目見て、あるチョウが浮かんできた。ヒメシロチョウである。奥様のイメージに似ていたからである。ということで今回はヒメシロチョウの話。××××ヒメシロチョウは白い翅にうすい黒紋のある清楚なチョウである。かつて岐阜県には飛騨地方の河川堤防や高山線の線路沿いに生息していた。私は高校生の時、故N氏と高山市の宮川堤防へ出かけ、何匹か採集したことがある。飛び方が弱々しいので簡単に採れたことを今でも覚えている。それが1980年頃から次々と姿を消し、2000年以降は古川町のごく限られたところで細々と生きているだけとなってしまった。本種の食草はマメ科のツルフジバカマ。河川近くの草原にみられる植物だ。その草原が耕地や樹林となり生活できなくなったので、川敷や線路沿いのノリ面に移り、ここにあるフジバカマで生き延びてきた。しかし、ここも河川改修や線路沿いに除草剤が使われたりしたためいなくなってしまった。しかし、一気に激減したのではなく、何十年もの間に少しずつ減少してきたのである。このため、故N氏は生前、「このチョウはいつの間にかいなくなってしまった典型的な例である。なぜ保護できなかったのか。今となっては、せめて唯一の生息場所である古川町だけは残ってくれるのを願うだけだ。」と口にしていた。しかし、ここも絶滅したと言われている。故N氏の胸中を察すると胸が痛む。××××優勝後、琴奨菊は結婚式をあげた。その様子がテレビで放映された。恐らく日本人力士の優勝という勲章があったからであろう。やはり勝負の世界では勝者になること。これにつきると思った。昆虫愛好者の世界も同じだ。新種や珍品を採ると注目されるし、それがないと蚊帳の外。今の私だ。これでは駄目なので、今年は皆が驚くようなものを採ろうと気合が入ってきた。結婚衣装を身につけた奥様はきれいであった。その奥様を見ているうちに、「ヒメシロチョウが、何故いなくなってしまったのか。」こんな疑問がわいてきた。そのうちに、「大昔の高山市周辺には大小の河川がたくさんあった。そこには食草のツルフジバカマがたくさんあり、ヒメシロチョウにとっては天国。そのうちツルフジバカマは樹木や草本類に被覆され地獄となっ▲ヒメシロチョウ♂てしまう。しかし、当『岐阜県の蝶』(西田眞也著)より時の河川は氾濫するのが当たり前。樹木や草本は流され、またツルフジバカマが出てきて天国となる。この繰り返しでヒメシロチョウは何万年も生きてきた。」こんなシナリオが脳裏に浮かんできた。となるとヒメシロチョウは氾濫を繰り返す河川を利用して生活していたことになる。もし、そうだとすれば過酷ながらすごい知恵だと思った。そのヒメシロチョウが絶滅の危機。いつの間にかいなくなってしまったのではなく、人間によって犠牲となった悲運のチョウだと可愛そうになってきた。テレビでは大きな琴奨菊と小さな奥様が並んで映っていた。しかし、私の目は奥様に集中。やはり清楚で小さなヒメシロチョウのようであった。MORINOTAYORI 14