ブックタイトル森林のたより 751号 2016年04月

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概要

森林のたより 751号 2016年04月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹春木Ⅰ128▲山の道路沿いに積まれた春木飛騨の友人、中吉正治さんに、「春木山って知ってるかい?」と聞かれました。「春木(はるき)」とは3月~5月、樹木が根から水分を吸い上げて葉を広げる前に伐り出す薪です。この時期に一年間利用するだけの薪を伐って積み上げ、一夏乾燥させるのですが、この現場とその行為の両方を「春木山」と呼んでいます。この地方では、囲炉裏や台所、風呂などで使う薪を「春木」と呼びました。山で与岐(よき)と呼ばれる斧や、雁頭(がんど)と呼ばれる横挽き鋸で木を切って、割った薪を春木としました。飛騨地方では江戸時代まで、高山陣屋(江戸時代のお役所)などで許可を得なければ、山で炭焼きをすることができませんでした。当時の木炭は高価で、庶民はもっぱら春木を燃料とするしかなかったのです。春木には、「堅木(かたぎ)」と呼ばれたミズナラやブナ、イタヤカエデなどが火力、火持ちとも良いとして好まれ、同じ広葉樹でもサワグルミは「浅木(あさぎ)」と呼んで、針葉樹同様に火持ちが悪いとして嫌われました。囲炉裏が生活の中心であった白川村の合掌家屋では、家屋建築後に最初に囲炉裏を塩で清め、春木を焚くのが習わしです。囲炉裏で使う春木は、特に「とね」と呼ばれたトネリコの仲間が好まれました。トネリコの仲間は火持ちが良く、薪が燃える途中で弾けることが無いためです。囲炉裏の周囲には、稲藁でつくった稲掃筵(いなばきむしろ)が敷いてあり、弾けやすい木では、囲炉裏にくべた丸太が爆ぜ飛び、火事の原因になるからです。ところで、春木山は、病気などで立ち枯れした木々や、雪の重みに耐えられずに折れてしまった雪害木や、倒木を伐採することで、山を整えるための作業でもありました。しかし山の木で、枝が癒合して窓状となった「窓木(まどぎ)」や、主幹が三つ叉になった「棘又(とげまた)」は、山の神や天狗が休む場であるとして、伐採が禁止されました。春木はその場に積み上げ、半年~一年乾燥させ、秋であれば木馬(きんま)で、翌年の春であれば手橇(てぞり)で運ぶのが通常でした。飛騨地方での春木出しは、雪が解け始める4~5月に行うことが多かったようです。雪解け水が多い東北地方などでは、雪解けで増水する春に小流域を堰き止め、前年の夏中、山で乾燥させて軽くなった春木を河川に投げ入れて一気に下流まで運びました。このため青森県の津軽地方などでは、春の風物詩として「春木流し」、「流し木」と呼ばれていました。MORINOTAYORI 4