ブックタイトル森林のたより 751号 2016年04月

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概要

森林のたより 751号 2016年04月

活かす知恵とを森林人40変化するシステムとしての文化的景観と地域づくり●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525森林文化アカデミーまで岐阜県立森林文化アカデミー教授●嵯峨創平●変化するシステムとしての文化的景観景観生態学の教えによれば、人間と自然の相互作用の結果として生まれた文化的景観は3つの層で構成されます。まず「基盤」としての自然環境で、この層は地形・地質・植生など基本的に不変の部分です。第二層に「営み」としての人間活動があり、地域に蓄積された慣習・組織・技術などが含まれますが、この部分は緩やかに変化します。そして最上層にある「表現系」が、ふだん私達が目にする建築群・農地・生業形態などです。この部分は人間が各時代に合わせて外来の技術を採り入れ、居住や生業の形態を改変しています。しかし、人為による改変が余りに大きいと(外来種の侵入のように)在来の「地域遺伝子」である慣習・組織・技術が破壊されて地域社会が不安定になり、極端な場合は「基盤」である自然環境の破壊(公害など)に至ります。緩やかな変化の範囲でコントロールすることが、人間集団の「生存戦略」である地域づくりにとっても大切になります。●フィリピンの世界遺産棚田群昨年夏にフィリピンのルソン島北部コルディリエラ山岳地帯にある棚田群を訪れました。1995年にユネスコ世界遺産の文化的景観カテゴリーの第1号に指定を受けてから20年が経ちます。現地のイフガオ族の伝承によれば2000年以上前から棚田が築かれました。熱帯地方にありながら標高1500~2000mに広がる棚田景観は日本のそれとよく似ています。山の斜面に作られた棚田群はまるで「天空まで届く階段」のようですが、昔からの教えで山頂部分の森は決して伐採してはならないとされ、これが水田を潤す水源の役割を果たしています。また総延長2万キロに及ぶ石垣や水路網が、棚田農業を支えるため手作業で維持管理されてきました。●危機遺産への指定と脱却しかし世界遺産への指定後、コルディリエラ棚田群が平穏に維持されてきた訳ではありません。棚田での米作りは重労働なうえ収入も低く、若者達は都会へ流れて行きました。耕作放棄地が30%まで増え、換金性の高い野菜畑への転換が進み、棚田を守ってきた村の伝統的な慣習も崩れ始めたため、2001年にユネスコ世界遺産委員会より危機遺産の指定を受けてしまいます。この事態に対処するため、2006年から「イフガオの棚田文化継承プロジェクト」がスタートし、1伝統的農法と地域文化を次世代へ伝える活動、2棚田の担い手である農民に経済的基盤を提供する活動が展開されました。後者では着地型観光としてのエコツアー、植林活動と合わせたアグロフォレストリー(※)などが実施されています。こうした努力が認められ、コルディリエラ棚田群は2012年に危機遺産リストから脱却を果たしました。●岐阜県の遺産を活かした地域づくりへ岐阜県では近年、世界遺産「白川郷の合掌集落」、無形文化遺産「和紙技術(本美濃紙)」、世界農業遺産「長良川の鮎」などが認定され、観光資源としても大きな注目を集めています。これらを後世へ伝えるためにも、文化的景観の基盤を支える層と「表現系」としての地域経済のバランスを賢明に構築していきたいものです。▲世界遺産コルディリエラの棚田群※樹木を植栽し、そのあいだの土地で農作物を栽培すること。土地を有効活用し、森林の保護と作物栽培の両立を図る。MORINOTAYORI 8