ブックタイトル森林のたより 752号 2016年05月

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概要

森林のたより 752号 2016年05月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹春木Ⅱ129▲風当たりの少ない平坦地に生えるブナの幹薪を表す「春木」の呼び名は、東北地方~上越や北陸、山陰地方の日本海側で多く使われてきた言葉です。春木は秋には木馬(きんま)、春には手橇(てぞり)で運ばれ、雪解け水が多い東北地方では、雪解けで増水する春に小流域を堰き止め、前年伐採して軽くなった春木を、一気に下流まで運びました。このため津軽地方などでは、「春木流し」、「流し木」という言葉も残っています。現在でも、新潟県中魚沼郡津南町では体験学習の一つとして「春木山」を実施しており、兵庫県但馬地方では近年まで「春木山」と称した薪採り申し込み制度がありました。東北地方ではブナの春木で海水を煮詰めていたため、ブナを「塩木」とも呼ぶ地域もありました。東北地方での天日製塩を瀬戸内などの塩づくりと比較すると、海水の濃縮過程が短いため、2倍以上の薪を必要とし、上流のブナの森を塩木山として利用したのです。春木作業は、単に薪を調達するだけでなく、豪雪地帯の必需品「コシキ(木鋤)」材探しも兼ねていました。コシキは豪雪地帯で使われた、最も伝統的な除雪用木製スコップで、ブナの割木が最良品とされました。ブナのコシキは軽く、弾力があって折れ難く、着雪しにくいため、固まった重い雪を切り分けるのに適していました。ブナは漢字で「山毛欅」以外に、「?(木偏に無)」とも書かれます。これは木材が反ったり、曲がったり、狂いやすい性質からつけられたものです。しかし春木山で、薪をつくる過程でブナ丸太を割ってゆくと、中には長く真っ直ぐ縦に割れるブナがあり、それをコシキ用として里に持ち帰り、天井裏で乾燥させたのです。つまり春木山はまっすぐに長く割れるブナを探す場所でもあったのです。コシキ材とするブナは風当たりの弱い場所で、緩傾斜か平坦地のものが最適とされ、木目に沿って割り、削り出された一枚板の箆(へら)のようなコシキであれば、重い雪でも折れずに使えるのです。コシキは上越~北陸ではコスキ、バンバ、テスキとも呼ばれ、豊富なブナ林に恵まれていた日本海側の奥山では、江戸時代~昭和の中頃までブナでコシキや椀、杓子をつくりました。白山山麓の白峰村(現在の石川県白山市白峰)では、大正時代に約20軒の家が年間1800本ものコシキをつくっていた歴史もあるのです。残念ながら春木山は、昭和20~30年代にかけての燃料革命とともに姿を消し、飛騨でも暖房エネルギー源の多くが化石燃料に頼る生活となってしまいました。MORINOTAYORIMORINOTAYORI3