ブックタイトル森林のたより 752号 2016年05月

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概要

森林のたより 752号 2016年05月

査では林地内の4地点で2週間の撮影を行い、撮影回数(図2、写真4:シカ・カモシカの写っていた回数と頭数を集計)を比較しました。林地を歩いて行った踏査ではカモシカのみを目撃したのに対し、自動撮影カメラでは圧倒的にシカの撮影回数が多いという結果になりました。自動撮影カメラに一度に撮影された頭数でも、シカは最多で8頭と、カモシカを大きく上回っていました。不思議な結果に思えるかもしれません。これはなぜでしょうか?自動撮影カメラによる調査は、人が林に分け入る踏査よりも動物の行動に対して人の存在による影響を与えにくく、より自然な出現状況が結果に反映されていると考えることができます。つまりこの林地では、人が林地に入って行った踏査の結果に反して、カモシカよりもシカのほうが多く活動している可能性が高いと推測することができます。カモシカは崖のような開けた場所を好む傾向が強いため、シカに比べて人に見つかりやすい場所にいることが多いのかも知れません。一方、シカは群れで活動しているため、多くの個体が警戒にあたることで、人の存在を遠くで察知して逃走する能力がカモシカよりも高いのかも知れません。いずれにせよこの結果は(調査期間が短く調査の努力量も少ないため常にそうだとは言えませんが)「カモシカはシカに比べて人と出会いやすい」ことを示していると考えられます。シカとカモシカは似たような生き物に思えるかも知れませんが、実は性質が大きく異なるのです。この性質の違いと、それによる人側の誤認が、その後の対策に大きな影響を与えることがあります。シカの分布が拡大している地域において、「カモシカをよく見るから加害しているのはカモシカだ」と林業従事者が考えている場合、その誤認がもとでその地域のシカ対策に遅れが生じることにつながりかねません。カモシカは確かに存在し食害を起こしているかも知れませんが、被害の大部分の犯人は人目につかないシカかも知れないのです。岐阜県では「特定鳥獣保護管理計画」において、シカやカモシカの地理的な分布や増減の傾向が調査され、示されています。計画の中でも触れられていますが、シカは近年急激に個体数を増やしていると推測されており、その影響が非常に深刻となっている地域も多く、人工林や植林地の被害だけではなく森林生態系そのものへの圧迫も大きくなっています(図3)。シカの侵入初期の地域で対策が遅れれば、その地域の林業のみならず、水源涵養や土砂災害の防止といった森林生態系の機能への影響も重大な問題となるかも知れません。特別天然記念物として厳格な保護が行われているカモシカに比べ、シカは「狩猟」「有害鳥獣捕獲」のような捕獲オプションを含む、より多くの対策の選択肢があります。まずは「シカかも知れないと思うこと」「シカの侵入に気付くこと」が重要です。周辺への夜間のシカの出没や農業被害の状況等を判断材料としながら、自動撮影カメラの運用を検討するなど、自分の目のみを信じず対策の対象を十分に見定めましょう。野生動物と人との間には、見えているようで見えない様々な圧力が存在します。「姿を見る」ことに対しても十分な考察が必要なのです。図3岐阜県内の低木層衰退度ランク(SDR)分布図:採食痕や糞などを用いたシカの生息密度の指標MORINOTAYORIMORINOTAYORI9