ブックタイトル森林のたより 755号 2016年08月

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概要

森林のたより 755号 2016年08月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ツユクサⅡ132前回に引き続きツユクサの話をします。朝露に濡れて一層鮮やかな青色を見せるツユクサ(Commelinacommunis)。今回はその青色に迫りましょう。ツユクサとその変種オオボウシバナ(var. hortensis Makino)は、「青花(あおばな)」と呼ばれ、江戸時代には滋賀県草津市北山田を中心に多く栽培されていました。青花には主に花の大きいオオボウシバナが利用され、夜明けとともに花弁を摘み採り、すぐに絞って美濃和紙に汁を塗り、炎天下にさらして青花紙を生産しました。朝から晩まで休む間もなく、また夕立を気にしながらの作業は重労働で、一大産地の草津では「地獄花」と呼んだ一方、「青花成り金」も出るほどでした。ちなみにオオボウシバナは、滋賀県草津市の「市の花」にもなっています。この青花紙は水に浸すと、簡単に青色の染汁を得ることができ、この青色色素が水に溶けやすくまた退色しやすいため、古くから友禅染めの下絵染料や岐阜ちょうちんの下絵、陶磁器の絵付に利用されました。寛永15年(1638)松江重頼編集の『毛吹草』巻四には、近江?東山道の産物として「青花紙」が記されています。また、草津市所蔵の中神コレクションの一つで寛政9年(1797)に出版された『東海道名所図会・草津』にも「青花」を摘む光景が描かれています。青花の色素はコンメリニン(commelinin)というアントシアニン系のマグネシウムを含んだ複合体(金属錯体)色素です。この青色が金属錯体であることを最初に提唱したのは、日本の柴田桂太先生ですが、当時(1910年)はまったく受け入れられませんでした。それから80年後の1990年代になって、ようやくツユクサの青色色素の金属錯体にはアントシアニン、フラボン、マグネシウムイオンが含まれることが実証されたのでした。日本人にとって、なじみ深い「青」と言えば藍染の青かもしれませんが、万葉集に「藍」は一首しか詠まれておらず、ツユクサは九首詠まれています。当時の日本人にとって「青い染料」といえばツユクサが一般的であったのか、それとも儚く消える青色が魅力だったのでしょうか。現在はあまり見向きもされないツユクサですが、若葉を食用や薬用に用いました。民間薬としては、開花期の全草を乾燥させたものを鴨跖草(おうせきそう)と呼び、喉の痛みや喘息、発熱に対して用い、入浴剤としてあせもや湿疹にも用いました。大阪薬科大学の草野源次郎教授らの研究では、ツユクサの変種であるオオボウシバナには、糖質分解酵素「αグルコシダーゼ」を阻害して小腸での糖質吸収を穏やかにする成分が含まれるそうで、糖尿病予防の効果が期待されています。近年、おなかの出具合が心配な私としては、ツユクサが気になるこの頃なのです。▲草津浮世絵:『東海道名所図会・草津』に描かれた青花MORINOTAYORI 4