ブックタイトル森林のたより 755号 2016年08月

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概要

森林のたより 755号 2016年08月

活かす知恵とを森林人44●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525森林文化アカデミーまで「春日のお茶の遺伝分析から分かったこと」岐阜県立森林文化アカデミー講師●玉木一郎●お茶栽培の多くがクローン岐阜県揖斐川町春日地区(以下単に春日)では、在来茶や山茶と呼ばれるお茶が比較的大きな規模で栽培されています。この在来茶や山茶というのは一体どういうお茶なのでしょうか?日本のチャノキは在来種だという説もありますが、過去に中国から持ち込まれたものであるとする説が、現在では有力です。名前が紛らわしいのですが、春日で在来茶や山茶と呼んでいるのは、特に品種化されていないチャノキ、つまり地域栽培系統種になります。日本のお茶栽培では約8割がヤブキタという単一品種で占められています。また、その他の品種を含めると、お茶畑の92%以上が何らかの栽培品種のクローンで構成されています。品種化されていないお茶畑の大半は、過去に全国規模で品種化が進められたときに、畑の隅に残ったものが大半で、春日のように地域でまとまって残っているものは、それほど多くはありません。●地域栽培系統のメリット栽培品種は何らかの栽培上のメリットを持っているので大規模に栽培されるわけですが、問題なのは畑にある全ての個体が同じ遺伝子型を持ったクローンであるということです。クローンであるということには、品質がそろうというメリットがありますが、もしそのクローンに特異的な病虫害が流行した場合、壊滅的な被害を受けるというデメリットがあります。例えばクローンとして有名なソメイヨシノという桜の品種は、てんぐ巣病に弱いことが知られています。また、クローンは遺伝的に均質なので、今後の更なる品種開発は難しくなります。品種化されていない地域栽培系統種は、全ての個体が異なる遺伝子型を持っているので、中には病虫害に耐性のある個体もあるかもしれません。また、栽培に適した形質を持った個体を選抜し、かけ合わせることで新たな品種を生み出すポテンシャルも持っています。●遺伝的多様性がある春日のお茶春日で地域栽培系統種を栽培している169のお茶畑から、各畑につき1個体を採取して遺伝子型を調べてみたところ、全ての個体が異なる遺伝子型を示しました。試しにヤブキタを栽培している畑の個体の遺伝子型を調べてみると、調査した全ての個体が同一の遺伝子型を示しました。地域栽培系統種のお茶畑には、確かに遺伝的多様性が存在することが分かりました。集団に遺伝的多様性が存在する場合、過去にその集団がどのような個体数の変動を経て現在に至ったのかの歴史(過去の集団動態)を推定することができます。春日のお茶の過去の集団動態を推定してみると、約1,000年前に急激な個体数の減少があり、その後、個体数が徐々に増加して現在に至ったことが分かりました(図1)。この減少のタイミングは、チャノキが日本に持ち込まれたとされる時期にほぼ一致し、中国のチャノキが持つ大きな遺伝的多様性の中の、ごく一部が日本に持ち込まれたということを示唆しています。春日のチャノキの地域栽培系統種は、遺伝資源として貴重であるのは言うまでもなく、日本に渡来したときの歴史がDNAに残っているという点でも貴重であると言えます。春日のお茶は地元の道の駅で入手することができます。ぜひ過去の浪漫を感じつつ、その味を試してみて下さい。図1春日のチャノキ地域栽培系統種の過去の個体数の変化の推定値MORINOTAYORI 6