ブックタイトル森林のたより 757号 2016年10月

ページ
4/22

このページは 森林のたより 757号 2016年10月 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

森林のたより 757号 2016年10月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹マツタケⅠ134秋の味覚の王者、松茸。最近では山でなかなか見つけることができなくなりました。マツタケ(Tricholoma matsutake)はキシメジ属キシメジ亜属マツタケ節のきのこで、秋にアカマツ、コメツガ、エゾマツやハイマツなどが生えた栄養分が乏しい比較的乾燥した場所に発生します。岐阜県内では、標高が高い冷涼な地域では9月初旬から出始め、南部の低い地域では11月末頃まで見られます。意外にも6~7月の梅雨にも発生し、早松(さまつ)と呼ばれています。マツタケ菌はマツ属などの樹木の根と外生菌根もしくは外菌根と呼ばれる共生体を形成し、両者が共に利益のある相利共生することでも有名です。土壌に菌糸体と菌根を発達させた白い環状のコロニーを作り、その領域は「シロ」と呼ばれています。しかし、マツタケのシロはイボタケ科のケロウジに侵入されると排除され、ほかにも腐生植物であるシャクジョウソウに寄生されるなど、自然界には様々な敵がいます。他にも林地の環境として、落葉や落枝が蓄積して分厚い腐葉土ができて富栄養化することが大敵とも言われます。秋のマツタケの発生には9月の降水量が大きく関わることが知られており、1993年のように冷夏で雨の多い年は多く発生し、猛暑で9月末頃までの降水量が少ない年は収量が減少するとされてきました。しかし2010年のように記録的猛暑にも関わらず、秋の降水量が充分多かった時には豊作年になったことから、夏の猛暑自体は地中温度にあまり影響をせず、むしろ発生直前の降水量が大きく影響するとも考えられています。農林水産省の統計を見ると、マツタケの生産量は最盛期の1941(昭和16)年には12000トンありましたが、今では100トン前後を推移するほど激減し、流通品の95%が外国産となっています。輸入品は韓国や北朝鮮、中国(主に吉林省、雲南省、四川省、黒龍江省)、アメリカやカナダからのものが多く、なんと北欧のスウェーデンやフィンランド、トルコ、モロッコ、ラオス、ブータンなどからも入ってきています。しかしこの輸入物はすべてがマツタケとは限らず、四川省や雲南省から出荷されている中にはブナ科樹木と共生し、マツタケに外見や香りも似た別種が含まれていたり、北米産のアメリカマツタケ(T. magnivelare)のように色合いの異なるものもあります。近縁種とされてきたヨーロッパ産の欧州マツタケ(T. nauseosum)は、DNA鑑定では日本のマツタケと同一であることが証明されているにもかかわらず、学名をつけたのが日本のマツタケよりも20年早い1905年であるという理由だけで、不思議なことにいまだに学名変更がなされていません。▲美濃市の山で発生したマツタケMORINOTAYORI 4