ブックタイトル森林のたより 758号 2016年11月

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概要

森林のたより 758号 2016年11月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹マツタケⅡ135前回に続き、マツタケ(Tricholomamatsutake)の話をします。「におい松茸、味占地…」、この言葉が示すマツタケの香りは、1-オクテン-3-オールとケイ皮酸メチルが主体です。1-オクテン-3-オールはマツタケの香気成分の約70%を占め、きのこの成長段階や、傘部や柄などの部位に関係なく、ほぼ一定に存在します。この香り成分は、1938年(昭和13年)に三重大学の岩出亥之助博士がマツタケから単離し、構造決定した不飽和アルコールで、一般的にマツタケオールとかマツタケアルコールとも呼ばれます。しかし意外なことに、この成分はシイタケやマッシュルームなど、多くのキノコ中にも存在することが後にわかりました。私たちがマツタケの香りとして印象的に感じるのはケイ皮酸メチル(メチルシンナメート)で、こちらはきのこが成長して傘が開くと徐々に増加し、全体では傘部に多く含まれ、合成香料「マツタケエッセンス」として市販されています。このケイ皮酸メチルに代表される香りは欧米人には好まれない香りで、ヨーロッパ産の欧州マツタケ(T. nauseosum)の種小名nauseosumは、ラテン語で「吐き気(nausea)をもよおさせるキシメジ」を意味し、更には「何ヶ月も風呂に入っていない人の臭い」とか「軍人の靴下の臭い」とも例えられます。ところでマツタケなど、多くの食用きのこにはβ-グルカンが豊富に含まれます。このβ-グルカンがウイルスなどの進入から体を守る免疫細胞の働きを活発にし、腫瘍の増殖を抑制するとともに、鉄分の吸収を促進することが確認されており、健康食品的な取り扱いをされる方も多くいます。しかし、古くなったマツタケを食べると、激しい嘔吐、むかつきや下痢などの中毒症状が発生することもあるので気をつけて下さい。これはきのこのアミノ酸がヒスタミンやフェニールエチルアミンなどの有毒成分に変化することに起因すると考えられています。そう言えば、今から30年ほど前、きのこ研究の第一人者である小川真博士から「マツタケが特に好きな地域は、東海、近畿、中国、四国、北九州で、このマツタケ好き圏には納豆嫌い、牛肉好き、うどん好き圏などが重なっている」とお聞きしたことがあります。近年、若い人たちがあまりマツタケに興味を示さないのは、「ひょっとすると納豆が全国各地で食べられるようになったためか」と、考えながらきのこ採取に励む今日この頃なのです。▲岐阜県内で市販されていたマツタケMORINOTAYORI 4