ブックタイトル森林のたより 759号 2016年12月

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森林のたより 759号 2016年12月

-仰向けに泳ぐ、マツモムシ-【第305回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraリオオリンピックが終わって2ヶ月経過後の10月7日。メダリストの凱旋パレードが東京の銀座で行われた。その様子がテレビで放映された。沿道には80万の人が詰めかけ、選手を祝福していた。笑顔で手を振る選手たち。メダルが一段と輝いている。心が和むひとときであった。沿道の人混みはどこまでも続いていた。ビルの窓からもたくさんの人が手を振っていた。その大観衆の中を行進?する選手たち。見ているうちにあのリオオリンピックの開会式が思い出された。聖火台を目指して行進する各国の選手たち。行進は延々と続いた。そのうちに、選手が昆虫となり、大群となって巨大な誘蛾灯に向かっている光景となってしまった。この昆虫たちはメダルを目指して必死に闘った。こんなことを思いながらパレードを見ていたら、選手たちの闘いぶりが脳裏を去来し、懐かしくなってきた。特に次の選手たちの闘いは印象的だった。××××まず、女子水泳200m平泳ぎで金メダルを獲得した、岐阜市在住の金藤理絵選手。この種目の金メダルは24年前の岩崎恭子選手以来二人目の快挙だという。泳ぐ姿は豪快で、力強かった。両腕を大きく伸ばして水をかくと、体が勢いよく前へ進む。あっという間にゴール。その姿は「水の王者、ゲンゴロウ」のようであった。かつてゲンゴロウは池や水田にたくさんいた。私の小中学生の頃は簡単に採ることのできる普通種であった。それが現在は激減し、国や県のレッドデータブックに指定され、超希少種となっている。一方、オリンピックの金メダルも限られた数しかない超貴重品。そのメダルを首にかけた金藤選手。笑顔がすばらしかった。大写しにされた金メダル。大きな金色のゲンゴロウのように思えた。金藤選手がメダルを手にするまでは苦難の道のりであった。日本記録を更新した後に腰を痛めてロンドン五輪では落選。精神的にもボロボロになり地獄の日々だったという。それでもコーチを信じ、10年間指導を受けた。受賞後のインタビューで「まずコーチに報告し、お礼を言いたい」と涙声で話していた。この姿にすごく感動した。その後、金藤選手は岐阜市民栄誉賞と岐阜県民栄誉大賞を受賞した。おめでとう、金藤選手。××××シンクロナイズドスイミング(以下、シンクロ)はチーム、デュエットとも銅メダルを獲得した。特にチーム競技はアテネ五輪の銅メダル以来だという。これには驚いた。今回もメダルは無理だろうと思っていたからである。8人で水面を舞うスマートな選手たち。一糸乱れぬ手足の動きは圧巻であった。特に、水面で仰向けになって舞う姿は華麗で、池で泳いでいるマツモムシの集団のようであった。マツモムシは池や田んぼなどで生活する水性昆虫である。水面に仰向けに浮かび、長い後ろ足で水をかいで泳ぎ、疲れてくるとそのまま水面に浮いているという変わった昆虫である。マツモムシの武器は口。これに刺されると蜂以上の激痛が走る。私自身、何回も痛い目にあっている。水性昆虫は環境の悪化で年々減少している。しかし、マツモムシは別。どこでも見られるので、生命力の強い昆虫だと私は思っている。銅メダルを手にした選手たちの笑顔はすばらしかった。しかし、これを手にするには厳しいコーチの指導があったからだという。1日12時間の練習。これだけではない。食事、言葉使いなど普段の生活態度まで厳しい目が向けられた。このコーチがテレビで話された。私の責任のとり方は選手がメダルを手にすること。これが出来なければコーチは失格。すばらしいコーチだと思った。しかし、選手は多感な年頃。反発もしたかったのではないか。マツモムシに口を突き刺され痛がっているコーチ。なぜかこんな光景が目に浮かんできた。××××女子レスリングは金メダル4個、銀メダル1個と大活躍し、国民に感動を与えた。選手同士が向き合って様子をうかがい、一瞬の隙をついてタックル。時には相手を仰向けに倒して、押さえ込んでしまう。手をあげて笑みを浮かべる勝者。まさに▲仰向けで泳ぐマツモムシの背面王者であった。その姿は大きな角を突き合わせて闘い、相手をねじ伏せたクワガタムシのようであった。特に伊調馨選手。決勝戦では残り数秒での逆転勝ち。この執念。「すごい」の一言につきる。しかもオリンピック4連覇という快挙だ。まさに王者中の王者。誰しも思ったであろう。表彰台の伊調選手は光り輝いていた。金メダルを首にかけたオオクワガタのようであった。その目には涙があふれていた。その姿は闘う選手ではなく、おだやかな普通の女性であった。伊調選手にも国民栄誉賞が与えられた。おめでとう。このほかの競技にも様々なドラマがあった。その都度胸が熱くなり感動した。次のオリンピックは東京だ。特に伊調選手には5連覇をはたしてもらいたいものだ。こんなことを思い出しているうちにパレードは終了した。選手の皆さん、勇気と感動を与えてくれてありがとう。思わずこんな言葉が出てしまった。MORINOTAYORI 12