ブックタイトル森林のたより 761号 2017年02月

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概要

森林のたより 761号 2017年02月

-大発生した、オオシロカゲロウ-【第307回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira新年早々、本誌編集部の方から原稿を提出してくださいとのメールがあった。見るなり「しまった!」。すっかり忘れていたのである。すぐに書かなければと思うものの、題材がない。焦った。いくら考えても思いつかない。書く前から大きなプレッシャーとなった。そのうちに、ふと昨年大発生したカゲロウが目に浮かんできた。「これだ。これならすぐに書ける」ということで、気が楽になった。少し古いネタではあるが、このような事情なので御容赦のほどを。以下、その経緯。平成16年9月、県庁のAさんから、「木曽川の愛岐大橋に虫が大発生した。その数があまりにも多く、その死骸で車がスリップし危険である。現に昨日追突事故が起きている。何とかならないでしょうか」という相談があった。私はオオシロカゲロウ(以下、カゲロウ)だと思った。それは、このカゲロウは時々大発生して電灯などに飛んできて問題になるからである。このカゲロウの幼虫は水中で生活し、夏から秋にかけ成虫となって地上へ飛び立っていく。寿命はわずか1日。人目につくことはほとんどない。それが、なぜか突然大発生することがある。私自身、このカゲロウの大発生は何回か見ているが、すべて9月で、いずれも数日間で終わっている。しかし、2年続けて大発生することはなかった。このことをAさんにお話しし「大発生は1週間も続かないので、そのままにしておいたら」と答えた。××××しかし、私はこの大発生を見ていないので、その日の夜、現場へ出かけた。その途中、車中のテレビではこのカゲロウの大発生を報道していた。その中でアナウンサーが著名な昆虫の大家に「この大発生はいつまで続くのですか」と質問していた。答えは「すぐ収まりますよ」。私と同じだった。現場へ着いたのは午後7時40分。テレビ局や一般の人たちがたくさん来ていた。遠くから見ると電灯は虫のため鈍い光だった。近づくと周りにはたくさんのカゲロウが弱々しく飛んでいた。しかし、飛来数は私が想像していたより少なかった。カメラを持った人が近づいてきた。「7時頃はものすごい数でしたよ。それが地面に落ちて少なくなりました」と言われた。地面にはたくさんの死骸があった。その死骸の上を早足で歩くと転倒しそうであった。車がスリップすることが理解できた。私はその方に「毎日来ているのですか」と尋ねた。その方は「大発生した日から通っています」と言われた。私はこの人にいろいろ尋ねたところ、次のようであった。初日の午後7時頃はとにかく多く、前が見えなかった。それが徐々に少なくなり8時過ぎには激減し視界がよくなった。その代わり地面は死骸の山で、多いところでは数cmに達し、歩きづらかった。2日目は前日よりだいぶ少なくなり、今日はさらに少なくなり昨日の半分くらいだと言われた。「これで半分。まさに大発生だ」と思った。××××観察を続けていくと、いくつかのことがわかった。特にたくさん集まる電灯は2つ。それを離れると激減する。これはこの電灯近くの橋の下で発生したカワゲラが集まって来たものと考えられた。また、愛知県側の電灯にはいなかったことから、対岸の水辺では発生していないと思われた。そしてカゲロウの集まっている電灯から100mほど離れたコンビニの電灯からは見つからなかった。このことから電灯に集まってからのカゲロウの移動範囲は狭いものと考えられた。翌日、採集したカゲロウを調べた。500匹ほどいたがすべて死亡していた。ところが白色のカゲロウに混じって黄色い小さな米粒のようなものがたくさんあった。何だろうと顕微鏡で覗いたら、卵の塊だったのである。一つの塊で100個以上はある。私の手元にあるだけでも、ものすごい数。となると現地の地面に積み重なっているカゲロウの卵の数はどれくらいか。想像を絶する数。これが私の答えであった。しかし、カワゲラの卵は水中でなければ孵化できない。となると、この卵はすべて死亡する。だから大発生は2年続かないのだと思った。それと、卵はつぶすとネチャネチャし滑りやすい。車がスリップするのはこのせいだと思った。××××翌日も現地へ出かけた。しかし、カゲロウはわずかに飛んでいるだけ。道路にも死骸は見られなかった。予想はしていたもののこれだけ激減したのには驚きであった。その後4日間通った。2日目まではわずかに見られたが3日目からはまった▲大発生したオオシロカゲロウの成虫く確認できなかった。このことから大発生は終息したと確信した。橋の入り口には「カゲロウ発生中、通行注意」の看板が立っていた。「これもお役目ごめんか」と眺めているうちに、ふと思った。もし、愛岐大橋に電灯がなかったらどうなっただろう。大発生した成虫はどこかへ行くのだろうか。しかし、飛翔力が弱いので遠くへは移動できない。となるとこの川で産卵。すると来年は今年以上の大発生。そうなると……。その光景を思い描いていたら頭がおかしくなってきた。これが「昆虫世界の不思議というか謎」だと改めて思った。それにしても毎月掲載している原稿を書くのを忘れていたという大失態をした私。信じられなかった。しかし、まぎれもない事実。ひょっとしたら○○の始まりでないか。こんなことが脳裏をかすめ心配になってきた。MORINOTAYORI 10