ブックタイトル森林のたより 763号 2017年04月

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概要

森林のたより 763号 2017年04月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹クロモジ1404月に山で咲く花もいくつかありますが、私が好きなものにクロモジがあります。クロモジについては2011年4月の「森林のたより」にも楊枝の話を書き記しましたが、今回は別の話をしましょう。落葉低木であるクロモジは低地では花と葉が同時に展開し、小枝の節に散形花序を出して淡黄緑色の小さな花を多数つけますが、高地では葉が展開する前に花を咲かせます。近年、全国各地でこのクロモジの小枝を煎じ、お茶として飲む人が増えており、富山県南砺市利賀地域では、農商工連携ファンド事業としてクロモジ茶の商品化をしています。軽く煮立たせたクロモジ茶は味にクセが無く、飲むと口のなかにいい香りが広がります。樹皮や葉に含まれるテルピネオールやシネオールは抗炎症作用があるため、胃腸や喉の炎症に効くとされています。また抗菌・殺菌作用のあるリモネンも含まれ、抗アレルギー作用があるとされるテルピネオールとの相乗効果と、新陳代謝を助けるリナロールも含まれるため入浴剤としても利用されてきました。クロモジのリナロールは、アロマセラピストの間でも注目されており、香水や石けん、芳香剤などにも利用されています。リナロールはかつてシャネルのNo.5に使われていた主成分で、高山市の正プラス株式会社では、高山市周辺で採取されたクロモジの枝葉から抽出された精油(yuica)を生産販売しています。昨年、揖斐川町東横山にある「徳山民俗資料収蔵庫」を見せて頂いたときのこと、収蔵品のあるコーナーで、クロモジを利用した輪かんじきをみつけました。かんじきは湿った雪の上を歩くときの沈み込みを少なくするためのものですが、その素材がクロモジなのです。旧徳山村では雪崩避けの呪文として、「まえクロモジに、あとボーシ・・・」と唱えたそうで、同じように旧坂内村でもユキノドウという雪の妖怪を撃退する呪文として、「先クロモジに後ボーシ、あめうじがわ(黄牛の皮)の八つ結ばえ、締めつけ履いたら、如何なるものも、かのうまい(敵うまい)」と唱えました。つまり輪かんじきの前側をクロモジ材で、後ろ側をヤマボウシ材でつくれば、壊れることなく走って逃げてこられることを口伝していたのです。早春の山々で目立つことなく咲くクロモジの花、そんな花を見つけたら、ご先祖さまが伝えてくれた山の生活文化を思い出して欲しいのです。▲南砺市利賀地域で商品化されたクロモジ茶MORINOTAYORI 4