ブックタイトル森林のたより 766号 2017年07月

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森林のたより 766号 2017年07月

-優雅に舞う、モンシロチョウ-【第312回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira浅田真央。おそらく本誌読者、いや日本人ならほとんどの人が知っているであろうこの名前。元女子フィギュアスケートの選手だ。氷上での流れるような舞いと力強いジャンプ。多くの人が魅了された。私もその一人だった。競技が終わると一転して厳しい顔から笑顔へ。これがたまらない魅力だった。心の中の悪魔を追い払うような笑みで、心がなごんだ人が多かったと思う。それに我が家では小学2年の孫が「真央ちゃんだ」とテレビを指さすことがある。このように小さな子供から高齢者まで幅広い世代から愛された浅田真央(以下、真央ちゃん)選手。まさに国民的ヒロインであった。その真央ちゃんが平成29年4月10日に突然引退を発表した。テレビ、ラジオで速報が流れた。私は「まさか」、同時に「やはり」と思った。引退は近い。そんな気がしていたからである。2日後に真央ちゃんの引退会見があった。その様子がテレビで放映された。私はテレビの前に釘付けになった。やはり笑顔がすてきであった。話す言葉ひとつひとつが胸に響いた。特に「挑戦してみて、気持ちも体も気力も、もう出し切った」と言い、「やり残したことは何だろうと思うことがなかった。それだけ全てやりつくした」と笑みを浮かべた。この姿が印象的だった。××××引退会見から1ヶ月経過後、某テレビで真央ちゃんの特集を放映していた。リングで妖精のように舞い、時には力強い3回転半のジャンプ。見ているうちに現役時代の真央ちゃんを思い出し懐かしくなってきた。そのうちに、昆虫界にも真央ちゃんがいるだろうか。また私の悪癖である謎解き問答?が頭をもちあげてきた。真央ちゃんは人気者。知らない人はいないだろう。そんな昆虫がいるだろうかと考えた。思いついたのがカブトムシ。これは誰でも知っているだろう。しかし、カブトムシは黒い大きな塊のような頑強な体。それに動きが鈍い。真央ちゃんのイメージにはほど遠い。他にいないか。またまた、考えた。モンシロチョウが頭に浮かんだ。このチョウは身近にいて年中見られるので、誰もが知っているだろう。これだ、と思った。だけど、モンシロチョウはどこにでもいる普通種。それにキャベツやブロッコリーなどを食い荒らす野菜の害虫で、農家から目の敵にされている。これに対し真央ちゃんは世界を制した数少ないフィギュアスケートの女王で、言うなれば超貴重種だ。しかも誰からも好かれる。しかし、モンシロチョウ以外に思いつかない。結局、真央ちゃんには失礼とは思いつつ、謎解きの答えは無理矢理モンシロチョウとした。××××モンシロチョウ。私がこのチョウを知ったのは60数年前。小学生の時だ。音楽の時間に「ちょうちょう」という唱歌を習い、その教科書にモンシロチョウが載っていたからである。「ちょうちょう、ちょうちょう菜の葉にとまれ菜の葉にあいたら------」単調で抑揚のない曲であるが、この唄を口ずさむと、かつて友とモンシロチョウを追いかけた光景が目に浮かび懐かしくなる。それが現在、この唱歌を歌う子どもはいない。おそらくモンシロチョウを知っている子供は少ないのではないか。そんな気がする。ところがそうではなかった。ある日、庭でチビちゃん(孫)5人と遊んでいたら「モンシロチョウだ」と5歳のYちゃんが指さした。驚いた。モンシロチョウを知っていたのである。さらに驚いたのはほかのチビちゃん二人もモンシロチョウを知っていたのである。「誰に教えてもらったの」と尋ねたら、わからないという。しかし、チビちゃんの頭に入っていたという現実を目にし、やはり昆虫界の真央ちゃんはモンシロチョウだ。これも無理矢理当てはめた。それはチビちゃんと同じように、いつの間にか、多くの人の頭の中に真央ちゃんが入ったのだろうと思ったからである。××××真央ちゃんは失敗しても、多くの人はその演技に拍手を送った。これをあるスポーツライターは「エラーも三振も絵になった、プロ野球の長島茂雄さんに並ぶ存在」と話していた。そのとおりだと思う。とにかく真央ちゃんの演技は多くの人の脳裏からいつまでも離れないであろう。こうしたことから愛知県では県民栄誉賞を新設し、真央ちゃんを表彰するという。よい▲花の蜜を吸っているモンシロチョウことだと思う。いずれ国民栄誉賞の話もあるのではないか。そんな気がする。考えればモンシロチョウは年中身近な所にいるので、知名度の高いチョウだ。しかし、注目されることはない。虫好きの私も採ったり、観察したこともない。得のないと言うか哀れなチョウだと思う。数日前、近くの畑でモンシロチョウ数匹が花から花へ蜜を求めて飛び回っていた。いつも目にする光景だったが、この日はなぜか氷上で優雅に舞っている真央ちゃんのように映った。そのうちにかつて目にした郷愁を感じる牧歌的な光景となり、思わず「――桜の花の花から花へ」とあの唱歌を口ずさんでしまった。MORINOTAYORI 16