ブックタイトル森林のたより 766号 2017年07月

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概要

森林のたより 766号 2017年07月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹キササゲ143美濃市の片知渓谷を進む途中、川岸に大きな葉をつけ、花を咲かせるキササゲを見つけました。ノウゼンカズラ科のキササゲ(Catalpa ovata)は、古くに中国から導入された樹木で、河川沿いなどで野生化しているのを見かけます。葉は対生または3つが輪生し、大型の葉はやや丸い三角形から三~五に浅く分かれるものまで様々です。6~7月に咲く花は淡黄白色で内側に紫色の斑点があり、円錐花序を形成します。秋には細長い莢状の果実(蒴果)がつき、果実は落葉した後も枝先についたままになっています。キササゲの名は、この果実の形態が夏野菜の「ササゲ(大角豆、?豆)」に似て細長いためで、漢字で「木大角豆、木?豆」と書きます。果実は生薬名、梓実(しじつ)として流通しますが、伝統的な漢方薬ではほとんど使われません。民間療法では利尿剤や腎臓病に利用され、また葉と果実を痔の妙薬としました。8月頃に掘り採り取った根を乾燥させたものは梓白皮(しはくひ)と呼ばれ、利尿剤として用いられました。ちなみに中国では梓白皮を解熱、解毒剤とし、皮膚の痒みに湿布薬として用い、キササゲの若い葉を食用にした時代もあったそうです。キササゲの中国名は梓(し)で、別名は河楸、雷電木です。日本でも同じような別名でカワラササゲ、カミナリササゲと呼ばれます。カワラササゲは河原に野生化したものが多いことから、カミナリササゲは庭に植えて落雷を防ぐという意味です。中国でも日本でもキササゲは雷避けの木と言われ、古くから神社、仏閣、屋敷内に植えられました。雷と結びついた理由は、樹高が10m以上になり直径60cmに達するため、雲まで届く「雷電木」との事ですが、真意のほどは分かりません。面白いことに徳川家康は大の雷嫌いだったため、東照宮境内には大きなキササゲが植えてあったそうです。また滋賀県の彦根城にある楽々園には「雷除けの間」があり、避雷樹として本丸にも植えられているキササゲを床柱にしています。さて随分前のことですが、岩手県に出かけた時にたまたま立ち寄った川沿いでたくさんのキササゲが生えているのを見かけ、近くで農作業をされていたご老人に尋ねると、「雷避けに昔から植えてあるものだから、邪魔でも伐るわけにはいかないんだよ。」と言われました。今では河川整備のため、全国各地の河川に生えるキササゲは姿を消しつつありますが、美濃市にはまだまだ昔の名残が見られるのだと思いつつ、片知渓谷を上がっていったのです。▲大きな葉と花が特徴のキササゲMORINOTAYORI 4