ブックタイトル森林のたより 797号 2020年02月

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概要

森林のたより 797号 2020年02月

-人間生活で大発生、コクゾウムシ-【第343回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraかつてコクゾウムシは米の大害虫であった。幼虫が米を食べるからである。米の上を動き回るコクゾウムシ。年配者の多くは目にしているであろう。私自身、何回も見ているが、忘れられないのが結婚直後に我が家に発生した時のこと。「気持ちが悪い」と女房、「処分したら」と私、「食べるよ」、「なぜ」、「もったいないから」。こんな話しをした。我が家ではよく「もったいない」という言葉を使うが、ここが出発点。そんな気がする。私には、こんな笑えるような思い出のある虫なのである。ところが、このコクゾウムシは年々少なくなり、今ではほとんど見ることが出来ない。いつの間にか希少種となったのである。このままではレッドデータブックに掲載されるのではないか。こんなことを思ってしまう。しかし、そのコクゾウムシは私の標本箱に18匹しか入っていない。いつでも採れると思っていたからである。「もっと採っておけばよかった」と思うものの、後の祭り。農家や精米業者には悪いが、今はコクゾウムシが大発生することを願っている。しかし、30年近くも目にしていないコクゾウムシが現れるはずがない。夢のまた夢だと諦めている。そこで、このことを多くの人に知ってもらおうと原稿にして提出した。(本誌336回)××××原稿を提出してから2週間後の5月初旬、ある人が私を訪ねてきた。「この虫は何でしょうか」とビニール袋を渡された。中には褐色の小さな虫がたくさん入っていた。すべて死亡していた。体の色や形、大きさからコクゾウムシだと思った。しかし、この虫だとは言えなかった。高齢で目が悪くなり、小さな物はよく見えないからである。虫の名前は後日知らせることにし、虫のいた場所の状況を聞いた。見つけたのは4月中旬、空き家になっている実家の床にたくさんいた。ほとんど死亡していたが、生きている物もわずかに見られた。床の虫を取り除いたものの、10日後には再び同じような状態になったとのこと。しかし、その後は発生していないと言いながら、その発生時の状況をスマホの画像で見せてくれた。そこには小さな虫が床全面に散らばり、所々で黒い塊となっていた。その数、数千、いやそれ以上ではないかと思った。とにかく多かったのである。ここは1年以上空き家で人は住んでいないという。当然、米など無いので、別の虫ではないかと、顕微鏡で大写しにした。目に映ったのはコク▲床で死亡しているコクゾウムシゾウムシ。喉から手が出るほど欲しかった虫なので嬉しくなった。××××では、なぜこの家にいたのか。それを知りたかった。その人にコクゾウムシだと連絡し、この家と近所の状況を聞いた。虫がいた家は空き家で閉めっぱなしであるが、壁を接している隣には人が住んでいるという。となると、この家で発生した虫が侵入してきたのだ。これしか考えられなかった。その人には「隣から侵入してきたのです」と答えた。これで一件落着。しかし、あれだけの虫がわずかの隙間から侵入してきたのだろうか。こんな疑問が残った。それにしても30年近くも見ていないコクゾウムシが、今になって何故私の目の前に現れたのか。不思議だった。これは神様のお陰だと思ったものの、いや違う。ある人が助けてくれたのだと思い直した。と言うのは、ある人とは知人のS氏。本誌の編集責任者だ。執筆者のことはよく把握している。当然、私が原稿のネタ不足で困っていることを知っているはずだ。だから、ネタを提供してくれたのだと感謝している。××××さらに、このドラマは続いた。それから4ヶ月後の9月、今度は同じ職場のSM氏からコクゾウムシを頂いたのである。SM氏は、私の電話を聞いていたので、コクゾウムシは頭に残っていたという。それが家の米に発生したので、持参したとのことであった。コクゾウムシは30匹ほどで、ポリカップの中で動き回っていた。SM氏は次のように話された。米は昨年12月に農家から玄米を購入した。それを自宅で保管し、7月に精米にして食べ始めた。この時はいなかったが、2ヶ月過ぎた9月頃から見られるようになった。それが次々と発生してきたので、米を袋から出して天日に干したところ、2日後にいなくなったとのこと。この話しから、私は次のように想像した。このコクゾウムシは精米にする前の玄米に野外にいた成虫が侵入してきて産卵した。孵化した幼虫は米の中身を食べて成長し、1ヶ月後には成虫となって野外へ出て行き、そのまま冬を越す。そして、翌年イネ科植物の実(イネの場合は玄米)に産卵するという過程だ。それは本来のコクゾウムシは年1回の発生で、越冬した成虫しか産卵しないからである。しかし、家庭のコクゾウムシは年中見られるので、年に何回も発生すると思われているのであろう。米びつに残った成虫は、ここで死亡する。だから大発生するのは人間生活の中だけなのである。これを確かめるため、現在このコクゾウムシを飼育しているので、この結果が楽しみだ。それにしてもこの原稿が書けたのはS氏のお陰。今は神様に思える。S大明神。ありがとう。11 MORINOTAYORI