ブックタイトル森林のたより 806号 2020年11月

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概要

森林のたより 806号 2020年11月

-142日間の命、カマキリ-【第352回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira今回は本誌8月号でお話ししたカマキリの続き。ちびちゃんたちが飼っているカマキリは、次々と死亡しわずか4匹となってしまった。死んでしまえばちびちゃんたちが悲しむ。この4匹はなんとしても成虫にしなければと思った。そこで飼育箱を大きくし、1箱に2匹ずつ入れて飼うことにした。空間が広くなり、環境が良くなると考えたからである。しかし、変わらなかった。今まで通り天井につかまり、逆さになってじっとしているだけなのである。それでもちびちゃんたちは興味深そうに見ていた。ちょうどこのころ小学校が再開された。3女のNちゃんは今年から一年生なので、初登校だ。大きなランドセルを背負って喜んで出かけた。学校が始まると新しい友達ができるので、カマキリへの興味が薄れるだろうと思った。しかし、違った。姉のIちゃんと毎日観察しているのである。しかも「おじいちゃん、なぜカマキリはいつも逆さまになっているの」「このカマキリ虫を捕まえないよ。それで大きくならないの」などと、今までと違ったことを聞いてくるようになった。観察力がついてきているのだと、嬉しくなった。しかし、ちびちゃんが喜ぶのは、やはりカマキリが虫を捕まえて食べ始めた時。「おじいちゃん、バッタを食べているよ」「捕まえたのに、食べずに捨ててしまったよ」と話してくれた。ちびちゃんたちの声を聞いていると心が和んでくる。まさに至福のひと時だ。××××カマキリの餌は生きている昆虫だ。だから飼育は大変である。虫を捕って、与えなければならないからだ。しかも、成虫になるには6か月以上。この間の時間と労力は計り知れない。私は気が重かった。しかし、ちびちゃんたちが飼いたいというので、餌捕りを覚悟した。これが本音である。やはり餌捕りは大変だった。初めの頃は毎日2時間。近くの山へ出かけた。捕れないと半日かかることもあった。急に雷雨となりびしょぬれになって捕虫網を振ったこともある。これをカマキリに与える。それを食べて成長する。そのうちに大きな虫を食べるようになり、餌捕りは楽になってきた。ちびちゃんたちは飼育箱の中へ、いろいろな虫を入れてカマキリを見ていた。カマキリが大きな鎌足を広げて虫を襲って食べ始めると「わー、すごい」と声をあげていた。カマキリの様子を見るのがちびちゃんたちの日課。そのお陰で「カマキリが1番好きなのはこの虫で次がこのバッタだよ」「コガネムシとこの変な虫は食べないよ」などと私の知らないことを話してくれた。私自身、勉強になった。××××7月20日、Yちゃんが「カマキリが変だよ」と知らせに来た。脱皮の最中であった。止まり木につかまり殻を脱いでいく姿が異様な光景だったのだろう。ちびちゃんたちは真剣に見ていた。脱皮直後の白い体が緑色になっていく姿は神秘的であった。その5日後、別のカマキリが脱皮を始めた。すると、その最中に数匹のバッタがその体の上を飛び跳ねていった。苦しかったのだろう。しばらくもがいていたが、死亡してしまった。ちびちゃんたちは悲惨な光景を目にし「かわいそう」と哀れんでいた。脱皮中のカマキリの体はふにゃふにゃで、時間がかかる。なぜ、こんな脱皮をするのか。これが生き残り戦術なのだろうか。と考えてしまった。7月30日、数日前から元気のなかった1匹が死亡。残り2匹となってしまった。しかし、この2匹も獲物を襲わないし、動きも鈍い。大丈夫だろうかと心配になってきた。8月4日、「おじいちゃん、虫の数が全然減ってないよ。餌を食べているの」とIちゃん。確かに元気がない。これでは2匹とも死んでしまう。ちびちゃんたちの悲しむ顔が目に浮かんだ。予想通り翌日の朝に1匹死亡。その夜に残りの1匹も死亡した。卵から産まれ142日間の命であった。ちびちゃんたちはカマキリの変わり果てた姿を見て「このカマキリは大事にとっておいてね」といった。ちびちゃんたちのカマキリへの愛情。胸が詰まった。そのカマキリは標本箱の中で▲142日目に死亡したカマキリ眠っている。××××ちびちゃんたちは生まれたばかりのカマキリを142日間見てきた。この間、カマキリの生きる姿を観察し、勉強になったと思う。これはちびちゃんたちの宝だ。間違いなく宝だと思った。宝といえば私自身もカマキリの餌捕りをしたお陰で、思いもしない宝物を手にすることができた。珍品のオオタコゾウムシを採ったのである。私は2頭採集しているが、20年以上も前。それが補虫網にバッタと一緒に入っていたのである。嬉しかった。思わず「採った!」と胸が熱くなった。その後は、ここでオオタコゾウムシを探し、ついでにカマキリの餌捕りをするようにした。これが正解だった。さらに1匹採れたのである。しかし、ここは住宅や工場が立ち並ぶ市街地にある狭い草地。こんなところに生息しているのだろうか。こんな疑問がわいてきた。この謎を解くため、ここでオオタコゾウムシ探しを続けようと思っている。カマキリのお陰で宝物を手にした私。ちびちゃんのお陰だ。ありがとう。MORINOTAYORI 10