ブックタイトル森林のたより 806号 2020年11月

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概要

森林のたより 806号 2020年11月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹マルバノキ18311月ごろに見事な紅葉をするマルバノキ。マルバノキはハクウンボクやヤマボウシ、ムシカリ、ナツツバキ、シロワビスケ、オオヤマレンゲとともに「利休七選花」に選ばれています。天下人であった信長と秀吉、その2人に仕えた茶道千家流の始祖、千利休が茶花として愛した七種の花を「利休七選花」と言うのです。マルバノキ(Disanthus cercidifolius)は、日当たりの良い岩地や山地の谷間などに自生するマンサク科マルバノキ属の落葉低木です。樹高は1~3m、葉は全縁で直径5~10cmの卵円形~卵心形、5~7本の掌状脈があり、葉柄は長く4~7cmあります。マルバノキは不思議な樹木で、そろそろ落葉して休眠する11月ごろ、紅葉しながら花を咲かせます。一般に多くの植物は春~夏に花を咲かせ、その後は光合成によって蓄えた栄養分で種子を完熟させるか、春から夏にかけて蓄えた栄養分を使って秋の初めに花を咲かせ、冬の前に種子を完成させます。また寒い時期に花を咲かせる植物は少なく、ましてやそうした樹木の多くが冬にも光合成できる常緑樹であることを考えても、マルバノキは例外に近いのです。花は両性花で、葉の脇から出る短い枝先に2つの花が背中合わせにつき、同時に咲きます。花は暗い紅紫色で、花弁は5枚で線形、では群生地が県指定天然記念物に、岡山県では希少野生動植物に指定され、盗掘や盗伐に罰則が設けられているほど珍しいのです。自生地が限られているにもかかわらず、低木で株立ちしやすく、全国どこでも育つため、各地で庭園樹や公園樹として好まれています。他にも園芸品種として、茶室に合うように大きくならない矮性の「利休」や、葉に白い斑の入った白覆輪葉の「恵那錦」なども流通しています。▲紅紫色の花と果実、紅葉が同時に見られる先が細長く尖ります。花全体はヒトデのような星型をしているため、ベニマンサクの別名でも呼ばれます。余談ですが、花に鼻を近づけて臭いをかぐと、ドクダミに似た匂いがします。属名のDisanthusはギリシャ語のdis(2つ)+anthos(花)で、これは花のつき方を表しており、種小名cercidifoliusはCercis(ハナズオウ属)+foliatus(葉のある)という意味です。岐阜県では郡上地域から東濃地域で見られ、特に郡上地域ではどこでも見られる樹木なのです。全国的な自生地は富山、長野、岐阜、愛知、三重、滋賀、岡山、広島、高知の各県に限られ、富山や三重、岡山、高知では絶滅危惧種に指定されています。分布が点在するのは、最終氷期の遺存種(relictspecies)であるためと考えられ、広島県廿日市市MORINOTAYORI 4