ブックタイトル森林のたより 813号 2021年6月

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概要

森林のたより 813号 2021年6月

-ここが入り口だった、つばめ-【第359回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira毎年、春になると我が家へツバメがやってきて子育てを始める。もう10数年続いているので、我が家の年間行事の一つとなっている。来るのは4月上旬から中旬。ところが、今年は暖冬だったせいか1か月前(3月9日)に来た。家の前を2匹飛んでいたのである。しかし、いたのは二日間だけ。その後姿を見せなくなった。何かあったのだろうかと心配になってきた。それから8日後の3月19日の朝。再び姿を現した。驚いたことに家の中なのである。2階の廊下を飛んだり、壁に止まったりしていた。ガラスに衝突したら大変だと思い、窓を開けて外へ逃がした。しばらくして、ツバメはどこから侵入したのだろうと考えた。戸や窓は締まっているので、入るところがないはずだ。不思議だった。外ではツバメが飛び回っているが、我が家で巣を造る気配はない。壁や地面には糞が見られないし、毎年使っている巣は壊れたままなのである。今年は我が家で子育てをしないのではないか。さびしくなってきた。それが6日後の3月25日、再び姿を現した。しかも前と同じように我が家の2階。飛んだり休んだりしていたのである。思わずほっぺたをつねった。夢ではなかった。どこから侵入したのか。しかも2回もだ。そこでこの場所を探すため、今回はすぐに逃がすことはせず、そのままにしておき観察を始めた。しかし、私の姿を見ると、逃げるように飛び回るので観察できない。そこで1階へ降りて10分間隔でこっそり見に行くことにした。1時間後にはいた。ところがその15分後にはいなくなっていたのである。まるで「キツネにつままれた」ようだった。××××翌日、孫のYちゃんが壁に下がっている紐を見て「おじいちゃん、この紐何なの」と聞いてきた。「あの窓を開けたり閉めたりする紐だよ」と窓を指さしたらわずかに開いていた。「ここだったのか」と胸が熱くなった。しかし、窓は下向きでわずかに開いているだけ。入るには屋根に降りなければならない。しかし、ツバメがスズメのようにピョンピョン地上を跳ねるのを見たことがない。本当にここから入ったのだろうか。気になったので、鳥類マニアのO氏に聞いた。O氏は、ツバメは上から下に向かって餌をとり、その後上へ飛ぶ習性なので、その可能性はあると驚きもせず答えた。そこで、これを確認するためドアを全開にしておくことにした。はたして3回目はあるだろうか。「二度あることは三度ある」という諺がある。こうなってほしいものだ。しかし、ツバメは来ることはなかった。××××そんな時、俳優の田中邦衛(以下、K)が亡くなっていたとの悲しいニュースが報道された。私の頭の中はツバメからK俳優になった。思い出のある俳優だったからである。私がKを知ったのは50年以上前。映画の全盛期であった。主役を引き立てる名脇役で、中でも加山雄三の若大将シリーズには欠かせない俳優であった。10本くらい見たのではないかと思うが、若かりし頃を思い出し、懐かしくなってきた。忘れられないのがテレビの「北の国から」シリーズだ。男手だけで二人の子供を育てるKの演技は圧巻であった。20年間放映されたが、その日が来るのが楽しみであった。間の抜けたような在りし日のK。目に浮かんでくる。その二日後、今度は嬉しいニュースが入ってきた。白血病と闘っている池江璃花子選手が50mバタフライ競技で優勝し、東京オリンピックの切符を手にしたのである。ガッツポーズをした後、目頭を押さえる池江選手。感動的で、目頭が熱くなった。闘病生活は苦痛の連続で死んで楽になりたいと思ったという。それを克服しての優勝。多くの人に元気を与えたであろう。私もそのひとりで、再びツバメの観察を始めた。××××しかし、4月10日を過ぎても、ツバメは寄り付かない。もう我が家では巣づくりをしないのではないかと思った。そこで再びO氏に聞いた。するとO氏は「心配ない、そのうちに来て子育てを始めるよ」と言って、次のような話をした。ツバメは夫婦で子育てしているように見えるけどそうでもない。あぶれ雄(彼女のいないオス)が子育て中のオスを追い出し巣の主となったり、逆にメスが巣から逃げ出すこともある。すると別のメスが来て子育てを始める。また、病気や事故などで両親が亡くなっても、他のオスとメスが来て子育てを始めるという。それにこの巣で育った子供や、別のツバメでもここに巣のあることは知っているので使い始める。だから大丈夫だとのことであった。最後にO氏はツバメは仲の良い夫婦に思われているが、男女(雄雌)間は乱れに乱れているんだよと笑って言われた。これを聞いて安心し、毎日ツバメ観察を続けているが、4月20日になっても変化なし。本当に巣作りを始めるか。またまた心配になってきた。5 MORINOTAYORI