ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci.　第63巻　第2号　通巻 第288号

概要

教育医学 J.Educ.Health Sci.　第63巻　第2号　通巻 第288号

介護老人福祉施設の施設管理責任者による人材定着のための取り組み提案を意見として提言できる機会があるなど意見提言の場に職員が参画することは職務満足につながり1)，職員のモラールの向上や人材定着に重要な要素であるといえる．方法の選択について自律性を得，自由に判断し行動できることは，職員の満足感が強くなり職務継続につながることが考えられる．施設管理責任者は施設の中で働く職員が，組織の中で自発的に独自のアイディアを創造することで組織を活性化し，職員の定着につなげることができると考える．ケアに対する改善点は，日常の業務の中で発案されるものであり，ケアに直接携わる職員が業務改善について自由に意見を述べ，提言したことが組織全体の意思決定や日々の計画に反映されることによって，職員自身の存在意義や仕事に対する意欲が高まることが推測される．介護現場では高負担作業が多く20)，筋骨格系障害のリスクとなる業務が多い．移乗による腰痛が原因で欠勤・離職につながる24)ことが考えられる．欧米では，介護職員の筋骨格系障害のリスクに対する研究により，介護機器や介護補助具使用の重要性を明らかにし，介護現場において介護機器を用いることが普及している4)．新たなトランスファーテクニックや移乗時の補助具，今後の産業構造の変革を見据えた革新的なロボット技術やITによる間接業務の効率化など9)新しい技術や方法を積極的に導入するとともに最新情報を受信することが重要といえる．介護の業務については，直接・間接の区分には明確ではないものの，直接支援に注力できるよう，居室の掃除や衣類の洗濯などの利用者の処遇に直接影響を及ぼさない業務については外部委託を検討することも必要である．嚥下機能の低下した利用者の食事介助や身体機能の低下した入浴介助には多くの介護力が求められ，人員を要する時間帯の業務にあたる時間給職員を積極的に採用し，業務の負担軽減とバランスのとれた働き方は職場定着につながることが考えられる．また，ホームページ，SNS等IT技術を活用して施設内の業務改善や成果発表を発信することは，職務を果たし，努力したことが承認され働く意欲を喚起されるといえる．雇用の形態については，パートタイム労働の増加や派遣職員など多様化している現状がある．こうした多様な雇用形態を通じて参入する職員の適正な処遇のあり方や，異なる処遇のもと現場の労働をどう組織化するかについては，今後の課題である．生活環境という点では，女性の比率が高い職場において託児・保育所が整備されていることは，安心して働く環境が整い，職務満足につながることが推測できる．また，女性のライフイベントである妊娠・出産・子育てに対する業務上の身体的・精神的配慮は重要である．妊娠中の職員には，利用者の移乗などで力を入れる仕事は積極的に避けることや，夜勤の制限をするなど働き方に対して配慮が必要である．また育児休暇・産前産後休暇を取得することを奨励し，産後休暇をとり職場復帰をすることはごく当たり前のこととして育児と仕事を両立できるような組織風土を作ることが重要になる．能力開発という視点では，現在，施設内外の教育・研修を行っている特養は約?0％を占めており2?)，ケア従事者の資格取得後における教育訓練や施設の枠を超えた外部機関での教育・訓練の活用がされている．職種間での教育内容のばらつきの解消に加え，ケアのスキルアップのために研修情報を幅広くできるだけ多く提供し，施設内外の教育機会に積極的に参加するとともに，外部機関の研修に対しては費用の補助をすることが必要になる．外部での研修は，他施設や他分野の人材との交流機会を持つことにより，職員のモチベーション向上につながり人材定着につながることが期待できる．高齢者の健康を維持し，持てる力を引き出しながら生活を支援するためには，職員による適切で専門的な知識や技術が問われる．ケアが適切で安全であるかの不安が介護職員のストレスにつながると考えら?)れ，ストレス度と勤続意向の関連からも，ケアに自信を持って実施できるような研修を実施することが人材定着につながる可能性が示唆される．? 200 ?