ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

稲垣良介,水沢利栄,田邊章乃11)3)野沢,稲垣,稲垣ら4,5,7)の報告がある.これら授業を対象とした研究は,対症療法的な内容,例えば,指導項目に対する児童の達成度に関する分析等が比較的多く,水難事故に遭わないことを企図する原因療法的な内容に焦点化した報告は僅少である.稲垣ら4)は,我が国の水難事故の特徴,すなわち,発生件数に対する死者・行方不明者の割合が高いこと,中学生以下の子どもの水難事故の発生場所が最多であるのは河川であること等に着目し,事後対応を第一義的な目標とする着衣泳に加えて,未然に水難事故に遭わない能力を身に付けさせることも重要であると指摘している.稲垣ら6)は,着衣泳と未熟練教師の実施した着衣泳の事後指導をセットにした学習効果を検討し,何らかの事後指導を実施することは,リスク認識や対策実行認識といった未然に水難事故を防ぐ能力を育成することに寄与する可能性を示唆している.しかし,目下のところ,教育現場における水難事故の防止対策は,事後対応的な対処方法を学ぶ着衣泳が扱われるが,未然防止を企図した授業はあまり見られない.水難事故の未然防止を企図した授業が行われたとしても,授業者が諸経験を基に試行錯誤的に授業を展開しているという実情があるため,指導内容を明確にしたり,指導方法を検討したりすることが喫緊の課題となっている.以上のような議論を踏まえたうえで,本研究では,水難事故の未然防止に資する能力を育成するため,危険予知トレーニングの手法を取り入れた授業を新たに考案し,着衣泳の事後指導として実際に児童に対して授業を行うこととした.危険予知トレーニングの授業時に学習プリントに児童が記載した内容と質問紙調査を分析することで,今後の水難事故の未然防止学習の在り方に資する知見を得ることが期待される.Ⅱ.方法1.対象対象者は,着衣泳と直後に実施した危険予知トレーニングの授業に参加し,すべての質問紙調査に回答したA小学校6年生の22名であった.A小学校は,例年,不意に水中に身を投げ出された際にパニックに陥ることなく,呼吸を確保したり水面を移動したりする技能を身につけさせることを目的に着衣泳実習を6年生で行っている.なお,A小学校は,通学校区内に遊泳に適する河川や海は存在せず,設置市に海水浴場のみ存在する環境であった.A小学校には研究の意図を十分に説明し,授業と調査について同意を得ることができた.表1危険予知トレーニングを用いた授業展開略案時刻児童の活動ねらい・留意事項13:5013:5514:0014:2014:3014:35・着衣泳学習の内容を振り返り意見交流する.・自身の経験について意見交流する.・身近な水辺で水難事故が発生していることを知る.・水難事故の実際を理解させる.・水難事故の実状を理解する.・水難事故の危険性を理解させる.課題:水辺の活動に潜む危険を予測して,対策をとろう.・河川で遊ぶこどものイラストを観て,危険な箇所を見つけ,その危険を防ぐためにとる対策について考える.〔危険予知トレーニング:教師対児童の活動〕・ワークシートの記入・海で遊ぶこどものイラストを観て,危険な箇所から対策を練る.〔危険予知トレーニング:個人・班活動〕・班ごとに話し合ったことを発表し,意見交流する.・ワークシートの記入・学習のまとめ・ワークシートに感想を記入する.・夏休みに向けて教師の話を聞く.・危険予知トレーニングの方法が分かるように最初は教師の助言を適宜行い,全員同時に課題を進めさせる.・対策によって,事故の未然防止が可能であることに気付かせる.・事故が起こってからではなく,起こらない方法についてよく考えさせる.・今後の生活の中で,事故を未然に防ぐことを意識した行動がとれるようまとめる.? 267 ?