ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

田路秀樹,梶原綾,江口善章Ⅰ.緒言23)厚生労働省によると,日本人の2015年の平均寿命は,男性が80.79歳,女性が87.05歳と世界トップクラスの長寿大国となっている.平均寿命は,0歳児があと何年生きられるかという平均余命のことであるが,近年は心身ともに自立した活動的な状態で生存できる期間を健康寿命と定義し,健康寿命をいかに延伸させるかが問題視されている.健康寿命は2013年時点で男性71.19年,女性74.21年であり23),加えて健康日本21(第2次)で打ち出した健康寿命の延伸目標は,平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加と報告されている21).健康寿命を延伸させるためには体力をいかに維持するかが課題と考えられる.体力を維持しているか否かの判断には体力診断テストが用いられる.高齢者に対する体力・運動能30)力調査として,文部科学省は65歳から79歳までを対象とする「新体力テスト」を発表し,一般的な体力診断テストとして広く用いられ22)ている.また,厚生労働省は介護予防マニュアル(改訂版)を作成し,介護予防における運動器の機能向上マニュアルに体力測定項目とその目標値が示されている.こうした高齢者の体力診断テストを基に加齢に伴う体格・体10,13,26,34)力の変化に関する報告,体力要素の性26,27,34)差に関する報告,運動習慣が体格・体12,14,28)力に及ぼす影響に関する報告は数多くなされているが,いずれも横断的なクロスセクションデータ分析によるものである.横断的研究は,1回の調査で高い参加率を得ることができるが,真の加齢変化に加えて出生コホートの影響が存在し38),横断的な分析による筋力の加齢低下は縦断的な低下よりも過小評価している4)とする報告もある.また,横断的データは縦断的データと比べ,実際より大きな加齢変化を見積もりやすいとする指摘もあり16),いずれにしても横断的研究では真の加齢変化を得ることには限界がある.また,縦断的研究は,時系列データとして年齢と各29)体力との相関関係から分析した研究,70歳をベースラインとして5年間隔で計4回健康診断を実施し,体格,体力の変動を分析した42)研究,測定開始時の年代区分別に10年後の33)変化を各年代区分別に分析した研究が報告されている.しかし,同じ対象者を継続的に測定しているが最終的に各年齢における平均値を基に最小二乗法により回帰直線を求めたものであり,個人差を考慮した分析にはなっておらず,横断的研究と同様真の加齢変化を検討しているとはいえない.よって,個人差を生み出す種々バイアスとして考えられる環境的要因(住環境・地域環境・生活環境など)や社会・経済的要因(教育・所得・ソーシャ32)ルサポートなど)のほか,遺伝的要因をいかに除去して分析するかが課題となる.その中で,パネルデータ分析はクロスセクション方向の情報と時系列方向の情報を加重平均して分析する方法であり,個人の(時間で変化しない)観察されない異質性を排除した上で厳密な因果関係の分析ができること43),同じ人に繰り返し調査することで,観察不可能な主体間の違いを固定効果として抽出可能になる利点がある18)とされている.従って,種々バイアスを考慮した真の加齢変化を検討するためには,パネルデータ分析を用いることが必要不可欠と考えるが,中・高齢者を対象とした体格・体力の変化をパネルデータにより分析された研究はなされていない.そこで本研究では,13年間に得られたデータを基に個体だけを時間軸で追跡した時系列データと,ある1点だけを取り出したクロスセクションデータを組み合わせ,バイアスを受けないとされるパネルデータ分析とバイアスを受けると考えられる時系列データ分析との比較を通し,加齢に伴う男女中高齢者の体格・体力の特性と性差について検討しようとした.1.調査期間と対象者Ⅱ.方法対象者は,兵庫県いなみ野老人大学,姫路市生涯大学で健康コースに所属していた卒業生の内,卒業後も体力測定に自主的に参加を? 145 ?