ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

高校生が抱える不安やストレスに対して体つくり運動が及ぼす軽減効果さらに保健体育の授業の効果を調査した研究では,保健体育の授業を8週間継続して受けた結果,心理的なストレス反応である他者への攻撃やストレスを低下させることができたと述べている16).本研究においても運動量の確保がストレス反応の抑制に影響した可能性が考えられる.別の視点でPark et al. 17)は高校生3,449名を対象に保健体育の授業の長期的な介入を行い,生徒の攻撃的な行動の変化を観察した.クラスメイトとともに保健体育の授業を行うことで攻撃的な行動をコントロールすることができる可能性を示唆している.これらの報告から不機嫌・怒りにおいては,運動を通して仲間とともに協働したことが効果的に働いたのではないかとも推測される.保健体育の授業の明確な効果を抽出するため,今後は保健体育の授業の中で生徒同士がどのような関わりを持っているか観察していくことも重要になる.無気力に関してはMiddle群においても,Preと比較しPostで有意な低下が観察された.川尻ら6)によると,大学1年生を運動習慣のある588名と運動習慣のない798名に分け,運動の頻度による意欲や活力の差異に着目し検討した結果,運動を行う頻度が週1 ? 2日程度の者がもっとも意欲や活力が高かったと述べている.また3カ月間の運動(1週間に3回,60分/回)を行った結果,運動を行わなかった群と比較し無気力が有意に改善されたと報告している22).学校における保健体育の授業を考えてみると週2 ? 3日実施することが多く,これらの運動頻度が意欲低下や活力低下を抑制し,無気力の改善にもつながったのではないかと予想される.一方で運動の種類や強度によっても精神的な健康におよぼす効果は異なるという先行研究もある3).しかし現状としてさまざまな運動の種類や強度について詳細な検討はなされていない.本研究においても生徒のストレスに対する影響を的確に捉えるために,体つくり運動の授業においても運動の種類や強度を明確にしていく必要があると考える.また学年によっても生徒が抱えるストレスは異なるという報告もあることから9,15),心理的ストレス反応測定尺度において1学年と2学年に分けて検討を行ったところ,2学年のHigh群においてのみPreと比較しPostで有意な低下が認められた.さらに学年による変化量を詳細に観察するため,各学年に対して下位尺度を抽出し,さらにストレス水準別に分けたところ,無気力のMiddle群において1学年と比較し2学年で有意に改善していた.運動を実施することにより無気力を改善させることができたという研究もあること,さらに学年によってストレスの対処方法も異なる報告もあることを踏まえ24,25),本研究では心理的ストレス反応測定尺度の下位尺度である無気力における2学年のMiddle群に対して,今回の介入である体つくり運動が適切なストレスの対処方法であったことが無気力の改善を助長した可能性がある.しかし今回の実験計画では学年による変化量の違いを詳細に判断することが困難であることから今後の課題としなければならない.これらの結果から判断して,体つくり運動を扱った保健体育の授業により,不安症状やストレスの値が高い群において軽減効果がみられ,また学年によってもストレスの変化量が異なることが示唆された.生徒の不安症状やストレス状態を軽減することが安定した学校生活や私生活を過ごす一助となり,学習に対して意欲的な態度や友人関係の良好な構築等につながることが期待される.今後は運動強度や種類を明確にし,さらに体つくり運動以外の単元の効果も詳細に検討していく必要がある.Ⅴ.まとめ本研究は高校生が抱える不安症状やストレス状態を,保健体育科の領域にある体つくり運動の授業を受けることで軽減することができるか検証した.不安を抱えていた生徒や抑うつ・不安や不機嫌・怒り,無気力などストレスが高かった生徒は保健体育の授業の中で適切な運動量を確保することで,不安状態や? 188 ?