ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci.　第64巻　第2号　通巻 第292号

概要

教育医学 J.Educ.Health Sci.　第64巻　第2号　通巻 第292号

地域包括ケアシステムにおける認知症高齢患者に対するシームレスケア尺度の作成に向けて；デルファイ法による内容妥当性の検討キーワード：地域包括ケアシステム，デルファイ法，認知症高齢患者，シームレスケア，BPSDKeywords：community-based integrated care systems, delphi method, elderly dementia patient,seamless caring, BPSD（behavioral and psychological symptoms of dementia）Ⅰ．はじめに2015（平成27）年に策定された認知症施策推進総合戦略（新オレンジプラン）10）は，地域包括ケアシステムの推進という文脈のなかで考案された国家プランである．地域包括ケアシステムは，国際的な文脈からすると，コミュニティベースドケア（Community based care）とインテグレティドケア（integrated care）の二つの独立したコンセプトを包含したものである21）．地域包括ケアシステムにおいては，2025（平成37）年を目途に，高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで，可能な限り住み慣れた地域で，自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう，地域の包括的な支援・サービス提供体制（地域包括ケアシステム）の構築の推進が示されている8）．我が国は高齢化とともに，認知症高齢者の増加が著しく，認知症に向き合えるケアの構築が，地域包括ケアシステムの中でも課題の一つである．認知症高齢者は，さまざまな傷病の治癒の過程において課題が生じることが多く，骨折のリハビリテーションの阻害要因6）は認知症であることも示されており，川北は，1年間の大腿骨近位部骨折62例中，認知症がみられなかった30例の自宅復帰率は96.7％，認知症を認めた32例の自宅復帰率は65.6％である，ことを明らかにしている．認知症では中核症状と中核症状から派生するBPSD（behavioral and psychological symptoms ofdementia）により，日常生活のさまざまな場1）面に困難を来す．粟田は，認知症のケアにおいて留意しておかなければならないことは，「脳の病的変化?認知機能障害?生活障害」をもって生きることが，さまざまな精神的・身体的・社会的困難に関連し，それら全体が本人や家族の生活状況を複雑化させ，生活の継続を困難にさせるリスクを高めるということである，と述べている．生活の継続性を保つためには，認知症という疾患の特性を踏まえ，患者と家族が安心して今までの生活が営めるような意図的なシームレスケアが必要である．地域包括ケアシステムにおいては，包括的，継続的，継ぎ目のないシームレスケアは欠かすことができないケアのあり方である．そこで，本研究は，看護職が実施できる地域包括ケアシステムにおける認知症高齢患者に対するシームレスケア尺度作成に向けて，デルファイ法を用いてその内容の妥当性を検討することを目的とする．1．対象・調査期間Ⅱ．研究方法地域包括ケア病棟を有する病院の常勤であり，3年以上の臨床経験がある看護師4名と高齢者ケア領域の教育・研究者であり3年以上教育経験がある4名を対象とした．調査期間は2017（平成29）年11～12月であり，計3回実施した．2．調査の手順（図1）本研究における認知症高齢患者に対するシームレスケアの概念プロセスを図1に示す．2,3,11,17）先行研究からの下位概念，地域包括ケ15）ア病棟における調査からの下位概念，地域包括ケア病棟を有する医療機関の外来におけ16）る調査からの下位概念を検討した．それらから，認知症高齢患者におけるシームレスケアとして〈日常生活機能を高める〉〈患者・家族とともに転帰先の選択〉〈多職種協働〉〈認知力に応じた関わり〉〈医療的ケアの継続〉の下位概念が導きだされた．1）第1回デルファイ法実施203質問項目から成る認知症高齢患者に対するシームレスケアに関する質問紙調査を実施した．2）第2回デルファイ法実施? 192 ?