森林のたより 709号 2012年10月 page 8/20
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-わが家の庭に希少種が、トウキョウヒメハンミョウ-【第255回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira7月23日の朝。もう太陽が照っている。暑い。今日も猛暑日になると思いながら、車に向かった。行き先は御嵩町....
-わが家の庭に希少種が、トウキョウヒメハンミョウ-【第255回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira7月23日の朝。もう太陽が照っている。暑い。今日も猛暑日になると思いながら、車に向かった。行き先は御嵩町のみたけの森。3日後に開かれるイベント「親子昆虫探し探検隊」の下準備だ。事前に昆虫捕獲トラップを仕掛け、カブトムシ、クワガタムシ、オサムシなどを餌でおびき寄せて捕り、それを子供達にプレゼントして喜んでもらおうというわけだ。そのトラップ用具を車に積もうとしたとき、小さな虫が飛び立った。そしてすぐ止まった。しかし、目の老化が進んでいる私にはよく見えない。まず捕まえようと手を出す。と同時に飛び立って逃げ、50cmくらい先に止まる。また手を出す。逃げる。この繰り返しだ。その途中に、同じ虫がもう1匹出てきた。これも捕ろうとしたものの、「2兎追うもの…」。この言葉どおり捕ることが出来なかった。2匹とも庭の花の中へ逃げ込んでしまったのである。また出てくるだろう。そう思って、御嵩町へ向かった。しかし、運転していてもこの虫のことが頭から離れなかった。あの虫は何だろう。飛び方はハンミョウの仲間だ。だとすると、あんなに小さなハンミョウはトウキョウヒメハンミョウしか考えられない。しかし、この虫は希少種。特に岐阜県では数例の記録があるだけである。それがわが家の庭にいる。まさか。そんなはずがない。頭が混乱してきた。その日の夕方、もう一度探した。しかし、いない。翌日も探したが、見つからなかった。××××トウキョウヒメハンミョウは外国から侵入してきた昆虫で、日本で最初に見つかったのは東京。それに大きさが1cm前後の小さなハンミョウなので「東京姫斑猫」。大変珍しい昆虫で、生息しているのは関東地方と数県だけ。しかも局地的に分布しているというのが、この虫に対する私の認識。岐阜県では平成5年にK氏が可児市で生息しているのを確認し、1匹いただき大喜びした記憶がある。しかし、それは20年も前の話。最近の状況を調べてみた。すると、ハンミョウの仲間は水辺周辺の砂地に生息しているが、トウキョウヒメハンミョウは民家の庭などでも生息できるため、かなり分布を広げ、今では各地で記録されているとのこと。しかし、岐阜県での記録は可児市だけ。もし、わが家の庭にいたのがこの虫であれば貴重な記録だ。そんなことを思ったら、もっと探すべきだったと悔いた。トウキョウヒメハンミョウを図鑑で見ているうちに、急に実物を見てみたくなった。そこで、K氏からいただいたのを見ることにした。しかし、数百箱ある標本箱から探し出すのは時間がかかる。庭にいたのを捕るほうがはやい。もう一度探そう。××××庭を徹底的に探した。狭い庭だから絶対見つかるはずだと思ったものの駄目。あれは別の虫だったのだろうか。いやトウキョウヒメハンミョウだ。こんな問答が続いた。その翌日。御嵩町でイベントのある日だ。朝から暑い。プランターでトマトを栽培しているので、出かける前に水をやろうとバケツに水を入れはじめた。その時である。黒い小さなものが飛び込んできた。何だろうと水道を止めた。バケツの水面では小さな虫がもがいていた。細い体に長い足。トウキョウヒメハンミョウだと思った。また逃げられては大変だと思い、すぐに捕まえた。間違いなかった。嬉しかった。わくわく気分で御嵩町へ向かった。ここでは、まず子供達とトラップに集まった昆虫を見た。たくさんいたが子供達の興味はカブトムシとクワガタムシ。ほかのものには目が向かない。そのほかの虫は持ち帰って家で調べた。驚いた。トウキョウヒメハンミョウが1匹入っていたのである。御嵩町にもトウキョウヒメハンミョウがいた。しかも、捕れたのは黒ビールのベイトトラップ。この虫もビールが好きなのか。私と同じだと笑えてきた。ほかにもいるはずだと、この近くを必死に探したが、捕ることはできなかった。▲トウキョウヒメハンミョウ××××それにしても、今まで無縁だったトウキョウヒメハンミョウが1日で2匹捕れた。しかも違う場所で。偶然といってしまえばそれまでだが、夢ではないかと思った。不思議だ。この言葉が口から出てきた。しばらくして、もっと欲しい。虫マニアなら誰しも持っている欲望がわいてきた。毎日、朝と夕方はわが家の庭を探した。御嵩町は3度出かけて探したものの、見つからなかった。貴重種は捕れないから貴重なのだ。誰かの言った言葉を思い出した。たしかにそのとおりだ。しかし、その貴重種を探すのが楽しい。しばらくこの貴重種探しは続きそうだ。採った2匹のトウキョウヒメハンミョウは標本にした。特に綺麗ではないが私には鮮やかに映った。しばらくして、なぜわが家の庭にいたのだろう。この疑問がわいてきた。考えられるのは3ヶ月前、隣家が解体され、さら地になった。そこに草が生えハンミョウの好む環境になった。だからここへ来た。こんなことを思った。しかし、ハンミョウは地面を這うようにして飛ぶ。とても長い距離を移動することは出来ない。だけどいた。不思議だ。わからない。これが昆虫の世界か。またこのパターンで終わってしまった。OCT 2012森林のたより8