ブックタイトル森林のたより 718号 2013年7月

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概要

森林のたより 718号 2013年7月

文:樹木医・全国森林インストラクター会理事川尻秀樹ツルアジサイとイワガラミ95川村と飛騨市河合町にまたがる天生県立自然公園。国道360号線脇の駐車場を出発して約30分歩くと、天生湿原に到着します。この湿原を越えて谷におりると、カツラやサワグルミ、トチノキなどの大木に巻きついたツルアジサイやイワガラミに出会えます。ユキノシタ科のツルアジサイ(Hydragea petiolaris)は、北海道から九州までの山地に分布するつる性の落葉低木です。見分け方のポイントは、落葉期は樹皮が淡褐色で縦に薄く剥がれやすい特徴があり、冬芽は紡錘形で、外見上は一対の芽鱗に被われているように見え、葉痕は三日月形をしています。着葉期の葉は対生し大きさや形の変化が大きいものの、基本的には先が尖り基部は円形から浅い心臓形で、細かく鋭い鋸歯が整然と並びます。また、葉の両面には脈に沿って短毛があり、裏面の脈腋は密生します。別名ゴトウヅル(梧桐蔓)とか、花の形がヤブデマリに似ているためかツルデマリ(蔓手毬)とも呼ばれます。がよく分からないのはゴトウヅルの梧桐の由来です。一般に梧桐とはアオギリ(Firmianasimplex)の漢名とされ、他にはアカメガシワ(Mallotus japonicus)は中国で野梧桐、クサギ(Clerodendron trichotomum)の生薬名は臭梧桐、また万葉の時代にはキリ(Paulownia tomentosa)を梧桐と記していました。それからすると、ツルアジサイの梧桐は何を意味するのでしょうか?同じユキノシタ科に属するイワガラミ(Schizophragma hydrangeoides)は、ツルアジサイによく似ていますが、ツルの樹皮が灰色で小さな割れ目があり、葉の鋸歯は粗く先端にいくほど大きくなります。ルアジサイもイワガラミも幹や枝から気根を出して木の幹などに着根しますが、花の咲く時期には容易に見分けられます。どちらも初夏になると枝先に多数の両性花とそれを縁どる白色の装飾花をつけますが、その形や数が異なります。ツルアジサイの萼片は四枚が基本で形はガクアジサイに似ており、イワガラミの萼片は一枚で三角状卵形なのです。両方とも4?6月頃の新芽を摘むと、キュウリの香りがします。この香り成分は青葉アルコール、青葉アルデヒド、キュウリアルコールなどで、植物が虫やカビに対する防御物質と考えられています。の新芽を摘んで、塩一つまみを入れた熱湯で素早くゆでて、あえ物や味噌汁、揚げ物として食用にできます。江戸時代(1767年)、米沢藩九代藩主の上杉治憲(鷹山)は144種に及ぶ救荒植物を普及しましたが、その中にツルアジサイやイワガラミもありました。こうした山の幸を活かす知恵を普及したこともあり、天保の大飢饉でも一人の餓死者、離散者を出さずに済んだと言われています。木に絡むツルアジサイとイワガラミを前に、「厳しい山での生活は、きっと豊かな森の恵みに助けられていたのだろう。」と考えながら、その先のブナ林を目指したのです。▲萼片が四枚で、形はガクアジサイに似ている。白私こツ大がりん6MORINOTAYORI