ブックタイトル森林のたより 721号 2013年10月
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森林のたより 721号 2013年10月
-罰があたる、ヤマヒル-【第267回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraヤマヒル(以下、ヒル)。この名前を聞いただけで鳥肌が立つという人がたくさんいる。ほとんどが餌食になり血まみれになった連中だ。身長、いや体長が4cm。体は茶褐色でヘビと同じような色。それにナメクジのようにぬめぬめしているので、たとえ餌食になっていない人でもこの姿を見れば気味が悪いと思うであろう。しかも、動物の血を吸う吸血動物。いったん食いつかれるとつまんで引っ張ってもなかなかとれない。取ってもそこからは血がしみ出てなかなか止まらない。まさにこれは不快動物のベストスリーに入る逸材?だ、と私は思っている。しかし、ヒルは伝染病や寄生虫を運ぶことはない。しかも血をたくさん吸われても病気になることはないので、ヒルに襲われ大騒ぎしている人を見ると実に楽しい。同情するより思わず笑えてしまう。こんな人の不幸を見て楽しんでいる私に罰があたった。それは私が長年探しているゾウムシを採りに山県市伊自良の釜ヶ谷山へ出かけたときにおきた。しかし、ヒルの大群に出会い捕虫網を振ることすらできなかったのである。以下、その行状記。××××そのゾウムシはトネリコアシブトゾウムシ。前から何としても採りたいと思っているゾウムシなのである。それが釜ヶ谷山にいるので採りに行くことにした。ところが前日の夜は大雨で、採集は無理だと思った。しかし、神様が私に味方した。8時頃から晴れてきたのである。いつものように女房と一緒に出かけた。釜ヶ谷山登山口についた。目についたのは大きな看板の文字。ヒル対策は万全ですか。私は悪い予感がした。監視人が声を掛けてきた。「ヒル退治の薬を持ってきましたか」「きません」「それは無謀だ」「そんなにたくさんいるのですか」「いるなんてものじゃないよ」私には少々オーバーに聞こえたので、「大丈夫です。ヒルの餌食になるようなヘマはしませんから」と言って、無防備のまま出かけた。登山道は整備されていた。こんなところにヒルがたくさんいる、私には信じられなかった。トネリコアシブトゾウムシを探し始めた。5分も経たないうちに女房が「ヒルがいる」と大きな声。登山靴に2匹付いていたのである。これはすごいと思い自分の靴を見たら12匹も付いていた。そのうち3匹は靴下の中に潜り込んでいた。××××「これはひどい」と思った。わずか数分で12匹も付いていた。もし女房が気づかなければ、私は間違いなくヒルの餌食になり血だらけ。そんなことを思ったらヒルがよけい憎くなった。こうなるとヒルを気にしながら採集しなければならない。足元を気にしながら捕虫網を振る。どうしても足の方へ目が向き集中して採集できない。今日は採れないかもしれないと弱気の虫が頭をあげる。しばらく歩いたら直射日光の当たらない薄暗いところへ来た。急に女房が悲鳴をあげた、「気持ちが悪い」。地面にヒルの大群がいたのである。頭を上げ下げして前へ這っているヒル。その数100匹、いや300匹。とにかくすごい数であった。ヒルは活発に動き回っていた。「ヒルはどのようにして人を襲うのか」、それを確かめようと私はヒルの大群の中に片足を入れた。驚いた。すぐにヒルは気づいて何匹も靴に近づき上にのぼり始めたのである。その間、2~3分。あっという間であった。これを見ていた女房の靴にも何匹ものヒルが付いていた。とてもじゃないが採集はできない。ヒルの餌食になってまで採ろうという気力はわいてこなかった。しかし、頂上までは行こうと上へ向かった。××××途中で3人連れが降りてきた。その一人はTシャツを着ていた。それが真っ赤であった。ヒルの餌食になったのである。「12匹にやられました」他の二人も足が血だらけになっていた。3人ともヒルの餌食になったのは初めてだとのこと。「びっくりしただろうな」と思ったものの、さすがに笑えてはこなかった。しばらくしたら2人連れが降りてきた。地元の方だった。その人達もやられていた。「ヒルにやられたのは10年ぶりかな。とにかくすごい数だ。今年は暑いのでヒルが大発生したのかな」、こんなことを言われた。登山は周囲の景色を見ながら登る。これが楽しいのだ。しかし、今回は違う。下を見なが▲地上を這うヤマヒルらただ歩くだけ。おかしな登山だと笑えてきた。頂上へ着いた。ヒルは付いていなかった。いそいで下山。登山口まで休まず降りてきたのでヒルは付いていないだろうと思ったら靴下の上に2匹、それを下げたら1匹が足から血を吸って血だらけであった。女房は足にいなかったので喜んでいたが、左手の親指の付け根に大きなヒルが付いていた。足ばかり気にして手までは見なかったようだ。ヒルはたっぷり血を吸い満腹になっていたのか、自分で落ちていった。当然、そのヒルは憎しみをこめて血の粛清。女房の親指からは血がにじみ出てきてなかなか止まらなかった。その夜の10時になっても出ていた。その血を見て、「もう釜ヶ谷山へは登らないから」。女房のことはどうでもよい。それより今回狙ったゾウムシが採れなかったのが悔しい。いずれ再度挑戦だ。その前にこれからはヒルの餌食になった人には同情することにしよう。13 MORINOTAYORI