ブックタイトル森林のたより 721号 2013年10月

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概要

森林のたより 721号 2013年10月

文:樹木医・全国森林インストラクター会理事川尻秀樹紅葉モミジ編98〝あっ、ちっちゃい秋みつけた!?、奥飛騨に登山に行った帰り道、バス停で小さなモミジの葉を手にした女の子がお母さんに話しかけました。山の樹々が色衣をまとう秋、美しさは年によってまちまちですが、どうして「紅葉」と言うのか考えたことはありますか?●もみじとは?ナナカマドやカエデ類による美しい光景を愛でることを「紅葉狩り」と書いて、コウヨウガリならぬモミジガリと読みます。では紅葉=モミジ(カエデ)であるかと言うと、話はそう簡単ではありません。もともと秋に草木が赤や黄に変わることを「紅葉つ、黄葉つ(もみつ)」や「紅葉づ(もみづ)」、つまり色づくことを表す自動詞が「もみつ」で、その連用形で名詞化したのが「もみち」でした。平安時代以前は「もみち」は黄葉を指し、平安時代に「もみぢ」と濁音化され、次第に黄色や紅色に変化する植物全般をさす言葉として紅葉(もみじ)が定着したようです。多分、当初は日本が手本としていた中国で、黄色が高貴な色として尊ばれたため「黄葉」と表記し、その後に日本独特の文化を構築する過程で紅(赤)をめでたい色として「紅葉」に変化させたのでしょう。これを裏づけるように『万葉集』では「もみち」はほとんどが黄葉を指しており、時代を経た『源氏物語』では紅葉が定着し始めています。ちなみに「もみつ、もみづ」の語源は、山形県などでたくさん生産されていたベニバナ(紅花)に関係し、ベニバナの黄色い花から染料を「揉(も)み」出す様子(花を揉むと黄色から紅色に変化する)から、「もみ」が「紅」を指すようになり、この色の変化が秋にもみじが色変わりする様子と類似しているためとも考えられています。●モミジとカエデ万葉集にはモミジを詠んだ歌が何首もあるにもかかわらず、カエデを詠んだ歌は二首しかなく、当時の人々が葉の形ではなく、色の変化に注目していたことが伺えます。カエデの語源はカエルの手ですが、植木屋さんなどは大まかに、葉の切れ込みが浅いものをカエデ、葉の切れ込みが深いものをモミジと区分けしていました。●葉の冬支度秋には気温の低下とともに光が減少して光合成能力が落ちます。特に広葉樹は葉が大きく平らなものが多いため、葉全面から水が蒸散しやすく、植物体を維持できなくなります。そのため冬になる前に、葉柄の基部に「離層」を作って葉を枯死させ、休眠芽や冬芽の形で冬を越します。また落葉は冬支度以外にも、樹体内の老廃物や大気の汚染物質を出す役割もあります。●おわりにバス停で見た女の子が手にしたモミジの葉っぱ、たった一枚の葉っぱでも幸せな気分になれる。紅葉にはそんな自然の不思議がひそんでいるのかもしれません。▲紅葉したハウチワカエデ(河原誠二さん撮影)6MORINOTAYORI