ブックタイトル森林のたより 726号 2014年03月
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森林のたより 726号 2014年03月
文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ネコヤナギ103長良川の川岸で、銀白色に輝くネコヤナギを見つけました。ネコヤナギ(Salix gracilistyla)は雌雄異株の落葉低木で、北海道から九州の、中流から上流の川岸に自生します。葉の展開に先立って花序を出しますが、雌株の花序は銀白色の絹毛が目立ち、雄株の花序は赤い葯が特徴的です。雄株の雄花は長さ3?5cmで、花粉が出る直前の葯は先端が赤茶色になり、葯が開くと黄色の花粉が出てきます。雌株の雌花は雄花より少し短く、銀白色になるため、花があれば雌株か雄株かを見分けることができます。またネコヤナギの花は、太陽がよく当たる南側の成長が良く、その歪みで反り返った花序の先端が北を向くため、花芽は膨らみ始めると先端が北方向を指す傾向があります。葉は長さ7?12cmの長楕円形で先がとがり、基部は丸く、縁には細かい鋸歯があり、裏面は灰白色になります。ネコヤナギの和名は、ふさふさとした銀白色の雌花序を、ネコの尻尾に見立てたものです。別名の狗尾楊(エノコロヤナギ)の名は小犬の尾に見立てた名で、ほかの川楊・河楊(カワヤナギ)、谷川楊(タニガワヤナギ)の名は河川や渓流に多いためです。ちなみにヤナギとは、ヤナギ類を矢の材料とした「矢の木」に由来します。属名のSalixは、水辺に多いことからケルト語の「sal(近い)とlis(水)」が語源とされますが、他にもヤナギの成長が早いことからラテン語の「salire(跳ぶ)」が語源とか言われています。世界に400種以上あるヤナギの仲間は、古くから万能薬として利用され、ギリシャ時代「医学の父」と呼ばれたヒポクラテスは、ヤナギの樹皮を解熱や鎮痛に用いました。ギリシャのディオスコリデスの本草書『マテリアメディカ』には、「ヤナギの葉を砕いて少量の胡椒とブドウ酒と共に服用させると、疝痛(せんつう)に苦しむ患者によく効く」と記されているそうです。疝痛とは簡単に言うと、腹腔内の臓器が痙攣して刺すような激痛をともなう腹痛のことです。ヤナギ類の有効成分は、ヤナギ科植物の樹皮などに含まれる「サリシン」という配糖体で、この物質が世界で最も多く使われた医薬品、「アスピリン(アセチルサリチル酸)」の母体となった話は有名です。中国の古典には、「ヤナギの枝でつくった楊枝を歯痛に使う。」との記載があります。同じように日本でも、ヤナギなどの樹木の枝を用いて、木片の先端を噛み砕いて繊維を出して歯ブラシ状にした歯木(房楊枝)を大正時代まで使っていました。岡山市の西大寺観音院などでは、ネコヤナギの小枝の先を繊維状にした房楊枝を「枝牛玉(えだごおう)」と呼んで奉納する習慣があるそうです。▲ネコヤナギの雄株に咲く雄花4MORINOTAYORI