ブックタイトル森林のたより 727号 2014年04月
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森林のたより 727号 2014年04月
文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ミツバツツジ104四月のある晴れた日、お世話になった東白川村の安江保民先生宅を訪ねると、東白川村の村花であるミツバツツジ(Rhododendrondilatatum)が花を咲かせていました。ミツバツツジ類は日本に約20種あり、その名の通り枝先に葉を3枚ずつ輪生させます。代表種のミツバツツジは雄しべが5本ですが、小葉、東国、大山、西国、南国ミツバツツジは雄しべが10本です。花の色は一口で言うと紅紫色で、4?5月頃に葉の開く前に咲くため、樹冠全体が花一色となります。この花には春の妖精、ギフチョウ(Luehdorfia japonica)も吸蜜に訪れます。ツツジの名の由来は、花が連なって咲くという意味の「ツヅキ咲き」とする説や、花が筒状になっているので「筒咲き」とする説、韓国で躑躅をtchyok-tchyok、またはtchol-tchukと発音し、これが日本でツツジとなったのではという推定説等があります。漢字で「躑躅」と記されることもありますが、中国でこの字があてられるのは「羊躑躅」というシナレンゲツツジ(Rhododendronmolle var.molle)に特異的に用いられているのみで、中国の普通のツツジは「杜鵑」という字が使われています。ミツバツツジ類は一般に、好酸性で種子は光発芽性と言われますが、これには菌根菌が関与しています。自然界ではほとんどの樹木が菌根菌と共生関係を結んでおり、ミツバツツジもこの共生関係のおかげで土壌がほとんど無い岩山や強酸性土壌でも生育することができます。ツツジ類はツツジ型菌根(エリカ型菌根)と共生し、特に酸性の泥炭土壌等で優占するのに重要な役割を果たしています。過酷な条件下で生きてゆける理由の一つは、菌糸が作用することでツツジの毛根がより発達して、水分やアンモニア態窒素、リン酸の吸収が促進されるのです。その代わり菌糸はツツジから有機質の栄養をもらい、いわゆる「持ちつ持たれつ」の共生をしているのです。一般的に、多くの植物は土壌pHが微酸性から中性で良く生育します。pHが低いと生育障害が出るのは単に低いためだけでなく、低pHによるアルミニウムやマンガンの過剰、リン酸の欠乏、微量要素の不溶化などが原因となっています。ところがツツジ達は菌根がこれらをカバーして、酸性の強い火山性土壌や貧栄養な岩石地でも比較的良好な生育ができるのです。いつもながら先生と話をしていると、何の相談に来たのか分からなくなるほど話が盛り上がり、ついつい長居をしてしまいます。重い腰を上げて、窓越しに見えていたツツジを見に行くと、それはコバノミツバツツジ(Rhododendronreticulatum)ではありませんか。美しい花を前に、私はいつも先生からお知恵を拝借するばかりで、いつになったらツツジ型菌根のように人や樹木のお役に立てるようになるのだろうと、思いながら帰路についたのです。▲紅紫色の花色と10本の雄しべ(コバノミツバツツジ)4MORINOTAYORI