ブックタイトル森林のたより 736号 2015年01月
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森林のたより 736号 2015年01月
●涌井史郎(雅之)活かす知恵とを森林人25癒しの森の真相●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525森林文化アカデミーまで岐阜県立森林文化アカデミー学長・東京都市大学環境学部教授森に出かけた人々は、何故心癒されるのであろうか。風にそよぐ木々の梢や葉の音、踏みしめた足元の落ち葉や枝の驚くような響きをもたらす音。野鳥のさえずりや遠くに流れるせせらぎの気配。日頃得ることができない森のすべてが五感に響いて心地よい。しかし何といっても、視覚に飛び込み、全身を包み込む圧倒的で多様な緑の色が、森に来たという実感を支配する。では何故緑色に人々は癒されるのであろうか。それは、人間の進化の過程と密接不可分なのである。およそ生物の視覚を支配する眼球の主役「網膜」には、明度を司る「棹体」と、色に反応する「錐体」が存在している。一般的に、哺乳類は明度に反応する「棹体」が網膜の主役を占める。それは何故であろうか。そう。それはいずれの哺乳類に共通する祖先のライフスタイルの記憶が未だに祖型として残されているからに他ならない。色が支配しない環境に適応することを余儀なくされたという記憶である。それではヒトの色への反応はどうなっているのであろうか。ヒトの網膜内の「錐体」には、光の波長450nmいわゆる「青」のS錐体と、525nm付近の色「緑」に感応するM錐体、555nmの波長「黄緑」に感応するL錐体の3種の錐体が支配的となっている。そもそも多くの哺乳類の祖先は、4種の錐体を持っていたと考えられている。例えば魚類は、紫色、青色、緑色、そして赤色を感じる視物質を持っている。しかし先に述べたように多くの哺乳類が夜行性を強いられてきた結果、3種あるいは2種の錐体に退行進化をしてしまう。多くの哺乳類は青と緑色を感じる視物質を失い、概ね2種の錐体で色を見極めている。よくイヌやネコは色盲という俗説があるが、こう考えてみると必ずしも俗説と片付けられないことが分かる。しかしチンパンジーとヒトなどの霊長類だけは、他の哺乳類とは異なり3種の錐体を取り戻した。しかしその再進化は、赤を感じる視物質から緑を感じる視物質、MとLが分かれたものであり、やや不安定なのである。ヒトに少なからず遺伝的色盲が現れるのはその為と言われている。では再び何故を考えてみよう。それは森そして樹上こそが、霊長類の安息の場で有り、生活空間であったためである。どの植物の葉や果実が熟れ頃等、食料として適しているのかなどを見極めるためには3種の錐体、とりわけ緑や黄緑色に対する微妙な反応を持つ方が、優れた生存戦略を得ることにつながる。人類が如何に文明を成長させようと、遺伝子に刻まれた祖型が失われることはない。笑い話であるが、何故多くの人びとがゴルフを愛するのであろうか。安息の森、これが地球規模の気候変動で大量に失われ、草原が優先する景観に変化する。致し方なく、人類起源の原人達も昼間は樹上の安息を放棄し、二足歩行をしつつ獲物を探さねばならなくなった。とはいえ完全に直立はできずやや前かがみな姿勢で、しかも狩りと自らの命を守るために棍棒のような道具を持たざるを得なかった。その姿がティーアップの姿勢そのもの。だから知らずしてゴルフの姿勢は、その時代を生きた祖型を想起させ、人びとが心地よく楽しめるというジョークである。いずれにせよ我々ヒトは、森を安息の場とし、森をふるさとにし、進化の道筋を歩んできたのである。しかも凡そ300万年前に人類に分化し、文明を獲得してから僅か1万年である。その殆どが森なくしては生きていけない時代を過ごしてきた。このことを考えれば、ひとりひとりの意志とは無縁に、自ずと森に癒されるのは当然なのである。しかし今我々は、その森をどのように扱っているのであろうか。人と同様に、森に生活の基盤を得ていたウイルスが、熱帯雨林消滅のスピードとパラレルに、ウイルスが未だ免疫を獲得していないエマージングウイルス、例えば、エボラやHIVのように我々を脅かす現象が続いているのも、如何に我々が、恵みを多大に受けていながらも、ふるさとを大切にしていない一つの証のような気がしてならない。MORINOTAYORIMORINOTAYORI11