ブックタイトル森林のたより 736号 2015年01月

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概要

森林のたより 736号 2015年01月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ヒメコマツと松飾り113▲古川家で使われる正月飾りの一部"わが家の正月飾りを届けます"と、郡上市美並町の古川家十四代目、古川秀樹さんから電話がありました。古川家では正月飾りとして、ヒメコマツやユズリハ、エゴノキにつけた花餅を束ねて用いるそうです。ヒメコマツは「神を待つ」ことにつながる松、ユズリハは代々家系が続くことを願う「常若(とこわか)」として竹の代用、花餅は五穀豊穣を願い梅に見立てたものではないかとのこと。そしてこの飾りに干し柿やダイダイをのせた鏡餅を添え、山の神や神棚、農具など十五ヶ所に飾るそうです。さてヒメコマツの標準和名はゴヨウマツ(Pinus parviflora)ですが、東日本から岐阜県では針葉が短く、小ぶりなため「姫小松」と呼ばれ、全国的にはゴヨウマツ、マルミゴヨウ、ヒメコとも呼ばれます。県内では飛騨地方に多く自生し、ブナ帯から亜高山帯の山地や尾根筋でモミやツガ、コウヤマキ、コナラ、ミズナラと一緒に生育します。日本のマツ属は葉が二本ずつつくアカマツやクロマツ、リュウキュウマツと、葉が五本ずつつくヒメコマツ(ゴヨウマツ)、チョウセンゴヨウ、アマミゴヨウ、ハイマツなどが分布しています。ヒメコマツの樹皮は暗灰色で、枝を水平に出し、5~6月新枝下部に雄花、新枝先端に雌花をつけ、球果(種子)が熟すのに二年を要します。湿地や潮風、大気汚染に弱い反面、乾燥に強く、特に人工的な整形にもよく順応し、形を変えやすいため庭園樹や盆栽に利用されます。木材はアカマツやクロマツのように年輪が明瞭ではなく、これは年輪として現れる春から夏につくられる細胞が、形も色も似ているためです。辺材は淡い黄白色、心材は淡黄赤色~淡赤色で、軸方向細胞間道(樹脂道)があるため、材表面に樹脂(ヤニ)がにじみ出て汚れに見えることがあります。建築用材としては、一部の構造材、長押、敷居、鴨居などの造作に用いますが、割れやすく耐朽性が低いため、アカマツほど木造建築の梁桁に使用されません。しかしアカマツの木理がねじれるのに対して、ヒメコマツの木理は通直で狂いが少なく、肌目も均質で緻密なため、ピアノの鍵盤下地やバイオリンなど弦楽器の腹板に柾目材を使います。また材が軽軟で切削加工性に優れているため、特に鋳物工業の木型材として、自動車や機械などの模型製作に使われてきました。昔は庭と言えば常に緑あふれた常盤木(ときわぎ)であり、神を待つにつながるマツが植えられたものですが、そうした習慣の一端を古川家に続く正月飾りの伝統に垣間見たのです。MORINOTAYORIMORINOTAYORI7