ブックタイトル森林のたより 742号 2015年07月
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森林のたより 742号 2015年07月
活かす知恵とを森林人31身近な生物を通して環境を見る●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525森林文化アカデミーまで岐阜県立森林文化アカデミー准教授●津田格●周りの自然環境を見渡す散歩の際に周囲を観察しながら歩いていますが、ざっと見るだけでも、その土地にどのような生き物がいるのか、どんな環境なのか、ある程度知ることができます。私が最近注目している生物にカワモズク類があります。これは淡水産の紅藻の仲間で、里山の水路の緩やかな流れの中で海のモズクのように揺らめいて生育しています。先行研究で、カワモズク類は清らかな水環境を好むとされていましたが、美濃市周辺でも比較的良好な水質の水路で確認できます。種類により、貧栄養環境から田圃を経た富栄養の環境までの間で棲み分けているとされ、分布を見ていくと環境をより詳細に捉えることができると考えられます。また最も普通に見られるアオカワモズクは秋から春にかけて繁茂しますが、夏にはその藻体は消失し、その消長からも季節の移ろいを感じとれます。●きっかけとなる生物このように特定の生物を注意深く見ることは、周辺の自然環境を知るには有効です。ただカワモズク類はあまり知られていませんし、無条件に興味を持てるものではありません。知らなかった生物について知ること自体は非常に有意義ですが、身近に教えてくれる人がいなければその存在に気づくことさえないでしょう。逆に、誰もが知っていて自発的に興味を持てる野生生物が、自然環境に目を向けるきっかけとしては適しています。そのような生物としてニホンミツバチが挙げられます。ニホンミツバチはアジアに広く分布するトウヨウミツバチの一亜種で、導入飼養されているセイヨウミツバチと違って、日本在来の野生種です。野生種ですが、くり抜いた丸太や木枠で作った巣箱を用いて、古くから飼養されてもいます。「飼養」といってもペットのように日常的に餌を与えるわけではなく、基本的には働き蜂が群れの維持に必要な蜜や花粉を周辺から集めてきます。その点では、「飼養」というよりは、人間の領域で一緒に「暮らす」と言った方が適切かもしれません。人間は多かれ少なかれ自然から直接、間接に恩恵を受けていますが、ニホンミツバチの場合、人間はその生物とともに暮らし、それを殺傷したりせずに蜂蜜という甘美な見返りを得ることができます。他にそんな野生生物はあまり思いつきません。よほどの辛党でなければ誰もが興味を持つことでしょう。●ニホンミツバチを通した視点ニホンミツバチと暮らすと色々なことが見えてきます。ニホンミツバチの蜂蜜は「百花蜜」と呼ばれ、周辺の花々から集められます。実際に働き蜂を観察すると、様々な色の花粉団子をつけて巣に帰ってきます。その花粉団子を分析したある調査では、ニホンミツバチは高木層の花を多く利用する一方で、ギャップや林縁部の花が多い時期にはそれらを利用し、夏場には涼しい林内の花を利用するといったように、森林の時空間的な構造や変動に効率よく対応しているそうです。花粉の分析には設備や技術が必要ですが、折々に変化する色とりどりの花粉団子を見るだけでも、「この森のどこに、これだけの花が咲いているのだろう」といった思いに至ります。時にはいくつかの不幸な出来事、例えば原因不明の大量死、働き蜂による子捨て、猛暑による巣落ち、逃去などに遭遇するかもしれません。そこからも周辺環境や気候の変化について考えさせられます。ミツバチの大量死については、ネオニコチノイド系農薬との関連性が疑われていますが、それは私たちの食に直結した問題でもあります。ニホンミツバチを通して、周辺の環境、あるいは他の野生生物達に興味を持ち、さらには自分の暮らしを見つめ直す。身近な生物をきっかけとして得られるものは少なくありません。ヤマハゼを訪花中のニホンミツバチMORINOTAYORIMORINOTAYORI11