ブックタイトル森林のたより 742号 2015年07月
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森林のたより 742号 2015年07月
-3年続けて大発生するか、マイマイガ-【第288回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira今、一番気になっていること。それは高山市で大発生したマイマイガのことである。私がマイマイガの大発生を初めて見たのは白川村。昭和41年である。これはすごかった。山の木の葉を食べ尽くした幼虫は、農作物や稲まで食べ始めたのである。その光景は50年経った今でも忘れることができない。ところが翌年は姿を消してしまった。この時、私は林業試験場の駆け出し研究員。ただ驚いただけであった。それから10数年後、土岐市でも大発生した。白川村ほどではなかったがかなりの木が丸坊主となった。しかし、ここでも次の年はいなくなってしまった。この時はいろいろ考えた。どの昆虫も自分たちの種が絶えないようたくさん卵を産む。しかし、外敵などの餌食となり生き残るのはわずか。この論理からすると大発生はより子孫を残すための強力な生き残り戦術。そのようにも思える。だけど餌を食い尽くすような大発生となると別だ。餌不足になって逆に数が少なくなってしまうからである。こんな馬鹿げた戦術をとるだろうか。とるはずがない。大発生はたまたま起きただけ。だから2年続くことはない。これが結論であった。根拠のない理由であるが、この時から私はこれを持論としている。××××平成13年の夏。久しぶりにマイマイガが高山市で大発生した。テレビ、ラジオで報道されるなど大騒ぎとなった。そのような時、たまたま高山市で昆虫の講義をした。質問はマイマイガのことばかり。ほとんどが「来年もマイマイガは大発生しますか」であった。「しません」と私。「その根拠は」と再度質問。「私の持論です」とは言えなかったので「私の勘です」と答えた。しかし、この勘(持論)には自信があった。翌年の5月、あるところで木の枝からクモのような糸で垂れ下がっているマイマイガの幼虫が何匹もいた。風が吹くと方々へ飛ばされていった。1本の木に幼虫が多数群がると餌不足になるので、それを避けるために築いたマイマイガの生き残り戦術なのである。その時、小さな鳥が飛んできて目の前を横切って行った。その後、何羽も往来した。鳥がぶら下がっている幼虫をくちばしでくわえて飛び去って行くのである。マイマイガの生き残り戦術が鳥にとっては格好の餌場。複雑な自然界の仕組みを垣間見ることができた。私は50年以上昆虫探しをしているが、これだけたくさんの垂れ下がっている幼虫を見るのは初めてであった。これはひょっとしたら大発生の前兆ではないか。こんな予感がした。悪いことにそれが的中。高山市でまた大発生したのである。2年続けて大発生。ショックだった。××××私の持論は勝手な思い込みであることがわかった。なぜ2年続けて大発生したのか。またまた考えた。「出る釘は打たれる」という諺のように昆虫界では特定の種だけが多くなることはない。ある種が多くなれば、それを駆除するものが必ず出てくる。カビや細菌などによる病気や寄生蜂などだ。前述した白川村および土岐市で大発生したマイマイガが翌年姿を消したのはやはりこれらに駆除されたのかと思った。しかし、高山市では2年続けて大発生した。なぜか。この時、昨年マイマイガの卵が壁、塀、窓、樹木などあちこちに産み付けられていた異様な光景が目に浮かんできた。その数はおそらく何千万、いや億万個単位かもしれない。これだけの数を天敵などが駆除できるのだろうか。無理だ。絶対無理だ。だから大発生した▲垂れ下がっているマイマイガの幼虫のだと私は思った。となると前の白川村などの大発生はなぜ1年で終わってしまったのか。今度はこんな疑問。考えているうちに、この時のメスは無精卵を産卵した…こんな突飛なシナリオまで描いてしまい、頭の中はガチャガチャ。こんな時、某テレビから取材があり、「来年も大発生しますか」との質問。「しません」と言いたかったが「わかりません」と答えた。いくらなんでも3年続けて大発生することはないだろう。と思ったものの「二度あることは三度ある」この言葉が頭に浮かんだからである。××××その翌年。大発生から3年目だ。さすがにマイマイガもあまり話題にならなくなってきた。これなら今年は大発生しないと思った。そんな時、あるところからマイマイガが大発生したのでどうすればよいかと相談があった。「大発生なら大変だ」と早速駆けつけた。しかし、違った。街路樹に大きな終齢幼虫が何匹も着いていただけなのである。私はマイマイガも生きていくのだからこの程度は当たり前だと思っている。しかし、虫に興味のない人には大きな毛虫が数匹いるだけで不気味に映る。このため幼虫の数が少し多いと大発生したと錯覚するのだろうと思った。マイマイガも自然界を必死に生きている。それなのに嫌われ虫。思わず同情してしまう。もしこれが綺麗な蝶だったらどうなるだろう。ひらひら舞い舞う綺麗な蝶。こんな見出しで新聞に掲載されるのではないかと変なことを考えてしまった。もうしばらくするとマイマイガの発生時期だ。今年も高山市で大発生するのだろうか。やはり気になる。MORINOTAYORI 14