ブックタイトル森林のたより 742号 2015年07月

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概要

森林のたより 742号 2015年07月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹タラヨウ119▲タラヨウの葉(上は葉裏、下が葉表)七月は旧暦で「文月(ふみづき、ふづき)と呼ばれ、一年の半分が過ぎた時点で文書を通わせて消息を知らせる月とする考えもあったようです。そこで問題です。「はがきの樹」と呼ばれる樹木をご存知ですか。図鑑で見る和名はタラヨウ(Ilexlatifolia)と言い、この名は江戸時代に南方産のヤシ科植物貝多羅葉(バイタラヨウ)という名で輸入されたウチワヤシ(Licuala grandis)の葉に因んでつけられたとも言われています。バイタラヨウはインドで古くから経文の写経材料にされたことから、これに模してタラヨウと名付けて、各地の寺院に多く植えられました。タラヨウは大きく緑色の葉と、群生する赤い実のコントラストが見事なため庭園樹に好まれたり、京都の綾部地方では防火効果の高い樹木としても植えられたりしています。タラヨウを葉書として使うには、爪楊枝のような細い棒などが必要です。この棒で葉の裏に文字や絵を描いてしばらくすると、こすった部分が次第に黒く浮き出てきます。このタラヨウはポリフェノール酸化酵素活性が高く、棒でこすられた細胞内の酸化酵素が働いて黒褐色になるのです。九州各地では、この文字が浮き出る現象から「絵かき柴(えかきしば)」とか、「字書き柴(じかきしば)」と呼ばれ、以前は日本郵政公社(現在の日本郵便株式会社)ではタラヨウを「郵便局の木」に指定し、4月20日の逓信記念日に植樹していました。またタラヨウの葉を火であぶると、炎の中心から周囲に褐色で環状(同心円状)の紋様が現れます。これは棒をこすりつけた時と同じように酸化酵素が働くためで、炎の中心部分は温度が高過ぎて細胞が死滅して酵素(タンパク質)が働かないため黄緑色が残ります。炎から少し離れた部分は温度が低いため、細胞内の酸化酵素が反応して茶色の死環と呼ばれる環ができるため、「紋付き柴(もんつきしば)」とか、「炙り出し(あぶりだし)」とも呼ばれます。タラヨウは日本では静岡以西の暖温帯に分布し、樹高20mに達するとされますが、最近では東京の公園やお寺でも見かけられます。葉はお茶の代用となり、材は轆轤細工に利用され、樹皮からは鳥モチもつくられました。ついつい紙を大量消費しがちな日常と、自分の周辺の文字の氾濫を反省しつつ、七月のタラヨウを眺める日々なのです。MORINOTAYORIMORINOTAYORI5