ブックタイトル森林のたより 762号 2017年03月

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森林のたより 762号 2017年03月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹フクジュソウⅡ139朝日を浴びたフクジュソウの花、その美しさは遠くから見ても一目瞭然です。朝、明るくなると花が開き、夕方暗くなると閉じるため、以前は花が光を感じて開閉すると考えられていました。しかし実際には、熱を感じて開花することが解明されており、真っ暗な場所に置かれても温度が約10℃以上になれば花が開き始め、15~20℃で全開します。また光や温度の変化に非常に敏感で、日中でも太陽光が遮られると1~2分で花が萎み、再び太陽光が当たり温度が高まると開花します。キンポウゲ科の植物は花弁がなかったり、形が変化していたりするものが多くありますが、フクジュソウは例外でしっかりした花弁があります。花の中央に複数の雌しべがあり、それを囲むように雄しべがあり、その下に20枚ほどの花弁と5~10枚の萼片があります。外気温が低い時期から花を咲かせるため、パラボラアンテナ型に花弁を広げ、反射板にして太陽熱を花の中央部にある雄しべや雌しべに集め、その日だまりに集まる昆虫たちに効率的に受粉させる仕組みなのです。フクジュソウの学名Adonisは、古代ギリシャ神話で、愛と美の女神アフロディーテに愛された美少年、アドニスに由来します。アドニスは他の女神たちの嫉妬を受けて殺され(書物によればイノシシの牙に突かれて死んだ)、アフロディーテは悲しみのあまりアドニスの血を、真赤な花の咲く草に変えたとされます。そのため欧州で、夏に赤い花を咲かせる一年草ナツザキフクジュソウ(Adonis aestivalis)の学名に用いられたのです。日本のフクジュソウは数多くの園芸品種が江戸時代に育種され、「本草要正(1862年)」には紅花や白花系、大輪や八重咲き系、段咲き系など168種が記され、現在でも埼玉県深谷市の中村家には170余年にわたって守り伝えられる品種が多数見られるとのことです。現在販売されている園芸品の中には、1月から咲き始める早生種や4月にならないと咲かない晩生種があります。しかし正月飾りなどとして売られる鉢植の中には、大量の根を強制的に切りつめ、秋に温度を下げた後、加温して花芽を大きくして出荷されたものもあり、そのまま管理しても枯れることがしばしばです。フクジュソウは根茎や根に、心臓に影響を及ぼすシマリンやアドニトキシンなど、強心性配糖体が含まれる毒草であり、根は生薬で福寿草根(ふくじゅそうこん)と呼ばれます。平成19年春には某テレビ番組で、フキノトウなどと一緒にフクジュソウの天ぷらを紹介し、女性リポーターが誤食しましたが、幸い事故に至りませんでした。見た目の美しいフクジュソウ、かわいい花を見つけたら、巧みに開く花弁の不思議を思い出して下さい。▲フクジュソウ:花の中央から雌しべ、雄しべ、花弁、萼片MORINOTAYORI 10