ブックタイトル森林のたより 762号 2017年03月

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森林のたより 762号 2017年03月

-我が家の玄関前に、クマバチ-【第308回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraこのシリーズで何回もお話ししたわが家の小さな庭。女房が多種多様の花を育てているお陰で、いろいろな虫たちが集まってくる。時々、「桃源郷で舞っている小さな妖精たち」のように映ることがある。しかし、どこでも見られる普通の妖精ばかり。やや物足りなかった。それが数年前、思いもしないものが現れ、心が躍った。それ以来、この桃源郷の昆虫に興味がわき、その行動を観察しながら、写真を撮るようになった。思えば私の昆虫歴は60年と長い。この間、主に甲虫類を狙って野山を歩き回ってきた。その私が庭にいる蝶や蜂などの普通の昆虫に目が向くようになった。この大変身というか様変わり。自分でも笑えてくるが、今はすごく楽しい。それは孫のY君が一緒になって虫探しをするようになったからである。××××昨年(2016年)も桃源郷の住人たちが次々と姿を現した。顔ぶれはほとんど同じだ。6月中旬、黒い蜂がいた。初顔のクマバチだった。しかし、5分ほどで姿を消してしまった。その後、クマバチは来なかった。ところが9月上旬、再び姿を現した。それも2匹。たまたまY君がいたので、「これはクマバチという蜂だよ」と教えた。Y君は「これも刺すの」と聞いてきた。「刺されると痛いよ」と答えた。しかし、Y君の頭にある蜂は黄色と黒のだんだら模様のアシナガバチ。小学1年のY君には黒い蜂が刺すとは思えなかったようだ。そう言えば私が蜂を知ったのもやはりアシナガバチ。小学2~3年生の頃に刺されて痛い目にあったからである。クマバチを知ったのはその後だと思うが、記憶は定かでない。誰かが「黒い蜂はクマンバチだ」と言っていたような記憶が残っている。「クマンバチ」。この名前を思い出し、懐かしくなった。2匹のクマバチは10分足らずでいなくなってしまった。さらにY君は聞いてきた。「巣はどこにあるの」。××××私は返答に困った。クマバチの巣を見たことがないからだ。それどころか、習性および行動や生活史などうろ覚えだったからである。とりあえずY君には「ここには無いよ」と無責任な回答。その後、本で調べた。最初から「え!」。種名が「クマバチ」ではなく「キムネクマバチ(以下もクマバチ)」だったのである。このことすら知らなかった私。やはり、まず自分自身が勉強しなければと思った。クマバチの餌は花の蜜や花粉。これを探していろいろな花に集まる。この時「ブーン」と発する大きな羽音。これが不気味で凶暴な蜂だと思っている人が多いようだ。しかし、クマバチはおとなしい蜂で、自分から攻撃することはなく、しかも刺すのはメスだけという。知らないことばかりだった。特に印象的だったのはクマバチの巣作りと子育て。1匹のメスが行うのである。まず、メスは夏から秋にかけ太い枯れ枝や家屋の垂木などを探し、ここに口径が1円玉くらいの細長い穴を掘っていく。この中に蜜や花粉を運んで団子のように丸め、ここに卵を1個産み付ける。これを何個も並べていくのである。孵化した幼虫はこの団子を食べて成長し、秋には成虫となってそのまま冬を越す。しかし、春になっても成虫は巣の外へ出て行かない。巣の中で親から餌をもらって生活し、6月頃に脱出していくのである。そして、花から花へと飛び回り、初秋になると親と同じような巣を作り始めるのである。しかし、新しく作るより、同じ巣を利用することが多いという。このことからして、私は「我が家にはクマバチの巣はない」と確信した。それは我が家には太い枯れ枝のある木や家屋に垂木がないのと、今までクマバチを見てないからである。××××しかし、そうではなかった。作っていたのである。驚いた。それも我が家の玄関前。しかも、木ではなく竹を利用していたのである。たまたま見つけたのだが、その経緯は次のとおり。この年の12月、玄関前のカシの木を支えている竹を取り外すことにした。5年経過し色があせ、美観が悪くなったからである。竹を取り外して切断し、ビニールのゴミ袋に入れた。しばらくしたら袋の中でクマバチが2匹動いていた。竹の中で越冬していたのだと思った。竹だったら中が空洞なので、自分で穴を掘らなくてもよいから手間が省ける。考えたものだと感心した。巣は何個もあるはずだ。まだいるだろうと袋の中の竹を調べた。やはりいた。全部で6匹。竹の中には巣の跡らしきものが何個もあった。しかし、かなり破損していたので、数年前から▲竹の中で越冬していたキムネクマバチ利用していたものと思われた。となるとクマバチも前から桃源郷の住人だった。その住み家を壊してしまい悪いことをしたと思った。住居をなくしたこの6匹の先は見えている。その償いとして3匹は標本にし、残り3匹は飼育しながら、その後の様子を見ることにした。クマバチをガラス瓶に1匹ずつ入れて物置に置いた。年が明けた。クマバチはまだ生きていた。触ると足を少し動かすのである。その10日後、猛寒波が日本列島を襲い、連日寒い日々が続いた。それでもクマバチは死ななかった。寒さに耐えてじっとしているのである。その姿を見ているうちに、このクマバチは春になると……。そんなことを思うと心が痛んだ。そのうちに、陽光を浴びて桃源郷を飛び回っているこの3匹のクマバチの光景が目に浮かんできた。MORINOTAYORI 14