ブックタイトル森林のたより 764号 2017年05月

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概要

森林のたより 764号 2017年05月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ノカンゾウ141春の芽吹きを見ようと、郡上市から高山市に続くせせらぎ街道を通りました。途中、清見町の直売所を覗くと「ピイピイ菜」という山菜が販売されていました。ノカンゾウかヤブカンゾウではないかと尋ねてみると、清見では子どもたちがこの若芽を吹いてピイピイ鳴らしたからピイピイ菜とのこと。ノカンゾウ(Hemerocallisfulva. var. longituba)は、高さ50cmほどのユリ科ワスレグサ属の多年草で、葉は幅広い扁平で、下部は茎を包み込んでいます。学名のHemerocallisは「一日美しい」という意味で、これは朝咲いた花が夕方には萎むためです。別名をワスレグサと言い、着物の紐に結ぶと嫌なことを忘れるという「おまじない」から来ています。ただし、一般に園芸業界でワスレナグサとして流通しているのは、ムラサキ科ワスレナグサ属のノハラワスレナグサやエゾムラサキ等ですので、お間違えの無いように。さて、萱草(かんぞう)と言えば、多くは一重のノカンゾウか、八重咲きのヤブカンゾウを指します。どちらも暖温帯の西日本を中心に、東北地方の野原や低山の林縁や草地、湿地、海岸から高山地帯まで分布し、これらは7~8月に橙赤色の花を咲かせます。ノカンゾウは日本原産ですが、ヤブカンゾウは中国原産で中国のホンカンゾウに似て薮(野原)にあるという意味です。ちなみに漢方で用いられる「カンゾウ(甘草)」はマメ科の草本で、萱草とは別種です。ノカンゾウやヤブカンゾウの若芽はおひたしや胡麻和え、酢味噌和えにして食べられますが、開花前の蕾や花も甘味と滑りがあって好まれます。昔は、蕾を採取した日に蒸して陰干しし、貯蔵山菜や解熱剤として利用したこともあります。また花は生のまま切ってサラダの彩りに使ったり、多量にあれば乾燥させて貯蔵食にしたり、ジャムにしたり、ホワイトリカーで花酒を楽しむこともできます。山形県の飛島にあるトビシマカンゾウは、花を塩漬けにして保存し、冬に海が荒れて船の便がとだえた時の食用にしました。中華食材店や観光地などで「ユリの花」、「金針菜(きんしんさい)」として販売されているのは、近縁種のホンカンゾウやユウスゲの花を乾燥させたものです。カンゾウ類の根は太さ約5mmでうどんに似ており、アルカロイドの一種(コルヒチン)が含まれているため、民間薬として利尿、止血に用い、漢方薬でも結核の治療や人間の血管内に寄生する住血吸虫の治療に使われました。清見町でピイピイ菜を買い求めた私は、その名の由来に山村文化を感じながら車を走らせたのです。▲山菜として食べ頃のノカンゾウMORINOTAYORI 8