ブックタイトル森林のたより 765号 2017年06月

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概要

森林のたより 765号 2017年06月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹クリの花142「臭っ!」、交差点で車を停車させると、まさに真っ盛りの花を咲かせたクリの木がありました。5月下旬~6月に花を咲かせるクリは、前年伸びた枝(結果母枝)の芽から発生する新梢に、雄花が150個程ついた穂状(尾状)の花序をつけ、雄花序の基部に雌花を1、2個つけるのが一般的です。雄花は垂れているためよく分かりますが、雌花は緑色で目立たず、針のような花柱が約10本と、後に毬となる総苞があるだけの簡単な形をしています。同じブナ科でもコナラ属とは違って、クリ(Castanea crenata)は虫媒花です。あの独特な雄花の香りで昆虫を集めますが、なんと雄花から花蜜も分泌するため、多く昆虫が雄花に集まります。花にはハナアブ類、ミツバチ類、ハナムグリ類など多くの昆虫が引き寄せられ、中には橙色が美しいアカシジミや緑色が美しいミドリカミキリ等も集まります。ブナ科クリ属は約10種が北半球に分布しますが、日本には1種しかありません。クリの変種には、一つの毬(殻斗)に果実が6~8個入ったハコグリ(Castanea crenatavar. pleiocarpa)や、毬のトゲが極端に短いトゲナシグリ(Castaneacrenata var. sakyacephala)、枝が垂れるシダレグリ(Castanea crenatavar. pendula)等があります。クリの属名Castaneaはギリシャ語でクリの実を指し、小種名crenataは葉が円鋸歯状であることを意味しています。葉による識別では、一見クヌギに似ていますが、クリの葉の裏には腺点(小さな粒々)があり、また鋸歯の先端まで葉緑素があることが見分けのポイントです。クリと言えば、焼き栗や栗きんとん、木材を連想する方も多いでしょうが、葉や樹皮も大変役に立ちます。肌の敏感な方にはお薦めできませんが、私は現場で「ヤマウルシにかぶれたかな?」と感じた時、応急処置としてクリの生葉を揉んで患部に汁をつけます。これはクリの葉に含まれるタンニンやタンニン酸が、皮膚炎症部のタンパク質に結合して収斂作用として働くもので、カキノキの葉も同じように使えます。クリやカキノキのタンニンは、「皮のなめし」で硬化や腐敗に関連するタンパク質を除くのに利用されたり、お酒の濁りの原因であるタンパク質を除く「清浄剤」に使われたりしました。また乾燥させたクリの葉や樹皮、毬を煎じてやけどやあせも、ウルシかぶれの患部洗浄に使い、クリの葉の煎汁は咳止めに効果があるとされ、海外でもヨーロッパグリやアメリカグリの葉を強壮薬や百日咳の鎮咳薬に利用していました。さて、クリの花のあの独特な香り、男性の前立腺液に含まれるスペルミンという物質に例えられるほど特有の匂いだったのです。▲左下がクリの雌花、後ろが雄花の穂状(尾状)花序MORINOTAYORI 4