ブックタイトル森林のたより 767号 2017年08月

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概要

森林のたより 767号 2017年08月

-引き裂かれた胸と腹、クワガタムシ-【第313回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira一昨年(2015年)、孫のY君がカブトムシ(以下、カブト)を飼育した。餌や水をせっせと与えて世話をした。その結果、10月下旬まで生きていた。カブトがこんな時期まで生きている。私は驚いた。カブトの寿命は1ヶ月で、お盆過ぎにはいなくなると言われていたからである。このことからカブトは餌さえあれば秋まで生きられる。しかし、カブトの餌である樹液はお盆を過ぎると出なくなる。だから秋まで生きられないのだと思った。私自身勉強になった。カブトの死後、飼育容器(以下、容器)内にある培養土(以下、土)を掘り起こした。またまた驚いた。5cmもある大きな幼虫が、すし詰め状態で22匹もいたのである。土はほとんど食い尽くされ、表面は糞で覆われていた。幼虫は大きな容器に移し替え、餌の土もたくさん入れた。翌年の5月下旬、土を掘り起こし、中の様子を見た。幼虫はさらに大きくなり、ほとんどが10cm前後。8匹が蛹になっていた。はじめて見る蛹にY君の目は輝いていた。6月上旬の朝、ついにカブトが2匹姿を現した。Y君は大喜び。これからはY君が主役だ。その後、カブトは次々と出てきた。Y君は昨年と同じように世話を始めた。××××ある日「カブトムシが死んでいる」とY君。その死骸を見て異常だと思った。胸と腹がはがれていたのである。それが3日後にも同じような死骸が2匹見つかった。カブトは共食いをしないので、これは餌の取り合いで争いとなり、敗れた者の死骸だと思った。しかし、そうだとしても腹と胸が切断されているのは何故か。こんな疑問が残った。その後も数匹死亡したが、このような死骸はなかった。残ったカブトは元気で、動き回っていた。そのうちにY君は「クワガタムシを飼いたい」と言い出した。私自身、カブトよりクワガタムシ(以下、クワガタ)の飼育に興味があったので「わかった。たくさん採ってやる」と口にした。Y君は大喜び。しかし、約束したからにはクワガタをたくさん採らなければならない。大きなプレッシャーとなった。そこでクワガタをバナナでおびき寄せて採ることにした。この仕掛け(トラップ)を5個作り、6月下旬に近くの山に仕掛けた。その後、2~3日おきに出かけてクワガタのオスだけ回収し、これを10月下旬まで続けた。炎天下で山へ上るのはきつかった。しかし、私の知らなかったクワガタの行動を次々と目にし、またまた勉強になった。Y君のお陰だ。ありがとう。以下、その概要。××××7月中旬、ミヤマクワガタ(以下、ミヤマ)が2匹採れた。これをカブトと一緒に飼うことにした。その翌日、カブト2匹が死亡した。ミヤマにやられた。間違いないと思った。しかし、2匹とも前のカブトと同じように胸と腹がはがれている。本当にミヤマなのだろうか。カブトムシ同士の争いではないかとも思った。だけどミヤマの仕業だと決めつけた。と言うより私の勘であった。その後、クワガタは別の容器に入れるようにした。7月下旬からノコギリクワガタ(ノコギリ)も採れるようになり、数は増えていった。8月上旬、Y君が「クワガタムシが死んでいる」と知らせに来た。死亡したのは3匹のミヤマ。このうち2匹はカブトと同じように胸と腹がはがれていた。しかし、この容器にカブトはいない。ノコギリにやられたのだと思った。だが、これも胸と腹がはがれている。何故か。いくら考えてもわからなかった。神様からのお言葉(勘)もなかった。8月中旬頃からコクワガタが採れるようになった。ただ、コクワガタは小さいので、大きなミヤマやノコギリにやられてしまうのではないか。こんなことを思った。ところがそうではなかった。コクワガタはしたたかで、普段は容器内にある産卵用丸太の下に身を隠し、すきをみて餌を食べていたのである。小さな虫が自然界を生き抜く知恵。この容器内で垣間見ることが出来た。××××9月上旬、飼育中のミヤマはすべて死亡した。野外でも採れなくなったことから、ミヤマの寿命は夏までだと思った。しかし、ノコギリとコクワガタは違った。時々ではあったが、10月になっても採れるのである。それに飼育中のものもノコギリが3匹、コクワガタが10匹生き残り、元気な姿で11月を迎えた。11月20日、すべて元気である。この姿を見て、両種ともこのまま冬を越す、いや越して欲しいと願った。ところが6日後に▲胸と腹が割かれたミヤマクワガタの死骸ノコギリはすべて死亡した。しかし、コクワガタは元気であることから、ノコギリの死は寿命だと思った。仏になったノコギリは安らかに眠っているようであった。一緒にみていたY君が「可愛そうだね」と言った。この言葉が心に響いた。残ったコクワガタはそのまま冬の眠りに入った。翌春、長い眠りから目覚めたコクワガタは餌をもりもり食べて、動き回っている。この姿をY君と一緒に下のチビちゃん二人も見るようになった。真剣な眼差しで見つめるチビちゃんたち。その姿に心が和んでしまう。MORINOTAYORI 10