ブックタイトル森林のたより 767号 2017年08月

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概要

森林のたより 767号 2017年08月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ギンリョウソウモドキ144「これは珍しいね、ギンリョウソウモドキだよ」別名アキノギンリョウソウとも呼ばれますが、多くの人にギンリョウソウと間違えられるものに、このギンリョウソウモドキとシャクジョウソウがあります。これらは少し前までイチヤクソウ科に分類されていましたが、最新のAPG分類ではツツジ科に分類されています。色が白っぽいためか、その生態が不思議なためか、山ではこれらを総称して「幽霊茸」とも呼びます。一般に植物は葉緑素で光合成をして生活するのが普通ですが、これらは葉緑素をまったく持たず、主に生物の遺体(土壌腐植)から菌根をつかって養分を吸収して生活する「腐生植物」の一種です。「腐生」という生活様式は、生物の死体や分解途上のものを栄養源とするもので、腐生植物は内生菌根と共生して、菌類が動植物の遺体分解物から有機物(炭素源)に依存して成長します。つまり腐生植物は生態系における物質循環で、「分解者」としての役割も担っており、ギンリョウソウモドキの果実を持ち帰って自宅で蒔いても、うまく育たないのです。これら3種の見分けポイントは花期と果実です。最初に、ギンリョウソウの花は白色で6~8月上旬、1茎に1花、果実は液果(成熟すると肉厚で汁気の多い果肉に包まれるもの)で横向きにつき、枯死後に腐敗します。ギンリョウソウモドキの花は白色で8月下旬~9月、1茎に1花、果実は蒴果(果皮は2枚以上の心皮でできており、成熟すると乾燥するもの)で上向きにつき、枯死後に腐敗しないで冬を越します。最後にシャクジョウソウの花は淡黄色で7~8月、1茎に多くの花をつけ、果実は蒴果で上向きにつき、枯死後に腐敗しないで冬を越します。ギンリョウソウモドキとギンリョウソウは、1938年までは同じ植物と考えられていました。しかし上記のように、ギンリョウソウモドキはギンリョウソウよりも遅く花が咲くだけでなく、果実が熟すと裂ける蒴果で、花は下向きに咲きますが、果実は直立して上向きにつき、褐色のかさかさした感じに枯れる特徴から別種とされたのです。最後に中国では、ギンリョウソウの透き通るような容姿の美しさを水晶に例えて「水晶蘭」と呼び、生薬でも「水晶蘭」は全草にモノトロペイン、ブドウ糖、果糖などを含み、強壮、強精、鎮咳に用いられるそうです。稀にしか見られないギンリョウソウモドキ。もしも晩夏の山で見つけたら、ギンリョウソウとの違いをじっくり観察してみて下さい。▲山間で咲いたギンリョウソウモドキ(古川明里さん撮影)MORINOTAYORI 4