ブックタイトル森林のたより 768号 2017年09月

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概要

森林のたより 768号 2017年09月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ミョウガ145「ギャー、何この赤い気持ち悪いもん」、ミョウガが群生する林地で赤い果実を見つけた人が叫びました。花茎を食用とするミョウガは、小型で6~7月に花をつけるものは夏ミョウガ、大型で8月~9月に花をつけるものは秋ミョウガと呼ばれます。花茎は地下茎から直接発生し、赤紫に染まった苞葉の間から、淡黄色で薄く半透明な一日花を咲かせます。ミョウガは地下茎による栄養体繁殖が主体で、人が生活していた場所以外では見られないとも言われます。一般に生物の染色体は、母親由来の1組と父親由来の1組が組み合わさった2倍体(2n)が基本です。しかしミョウガはこれが5組からなる5倍体(5n)であるため、受精しても親と同じ数の染色体数になることができず種子ができません。こうした理由から中国東南部原産のものが、ショウガとともに持ち込まれ、香りの強い方を「兄香(セウカ:ショウガ)」、弱い方を「妹香(メウカ:ミョウガ)」と呼び分けて、栽培されてきたと考えられています。しかし高湿度条件下などが揃うと、ごく稀に結実して果実をつけることがあり、群生地で見つけた「赤い」正体は裂開した果実で、その中に白い仮種皮に包まれた黒色の種子があるのです。ところで辞書によっては、ミョウガの意味として「おろかな人、愚鈍な人」と書かれているものがあり、他にも野菜を取り引きする市場では符丁に「バカ」と書きます。これは「茗荷を食べると物忘れする」という迷信があるためで、お釈迦様の弟子の一人であった周梨槃特(しゅりはんどく)に由来します。周梨槃特は物忘れが激しく、首にかけてある自分の名前を書いた名札があることも忘れてしまう人でしたが、彼のお墓から生えてきた草があり、その草を一生自分の「名前」を「荷って」苦労した「茗荷」と呼ぶようになったという言い伝えに由来します。ミョウガにはマツやスギにも含まれるα-ピネンやβ-ピネンという香り成分もあり、ミョウガの精油成分が大脳皮質を刺激して覚醒効果をもたらすため、逆に集中力を増し、他にも解熱や解毒、食欲増進、血液循環にも効果があります。落語の『茗荷宿』では「欲張りな宿屋の主人が、宿泊客の旅荷物目当てに、荷物を忘れるよう夕食にミョウガを出しますが、結局、宿泊客が宿代を支払うのを忘れて行った。」という落ちで終わります。物忘れが激しくなった私も、大好きなミョウガを食べ過ぎて、迷信のようなことにならぬよう心がけたいものです。▲赤い果実の中に、白い仮種皮に包まれた黒色の種子があるMORINOTAYORI 4