ブックタイトル森林のたより 768号 2017年09月

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概要

森林のたより 768号 2017年09月

-暴走老人、ブナカイガラタマバエ-【第314回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira私の友達はほとんどが年金生活。時間はあるが○○がない。こんな類の高齢者ばかりだ。ある日、この連中十数人でミニ宴会。勿論、年金暮らしの飲み助ばかりなので安い居酒屋だ。昔話に話しが弾んだ。そのうちに晩酌は発泡酒か安い焼酎、回転寿司、100円ショップ通いなどみみっちい話しとなった。「私は、高山へ行くときは高速道路を使わない」とA氏。高速料金は高山まで3000円かかるのに、短縮できるのは40分。いかにももったいないからだという。すると「私は、JRの普通列車を利用している。2000円でおつりがくるからだ」とB氏。さらにC氏は「私は高速バスを利用している。2500円と安い上、全席指定だからだ」とのこと。「そうか、あの飲み助は年金生活を自覚し、節約しながら行動しているのか」。私も心がけねばと思った。考えれば、私も高山市へは年に4,5回くらい出かけている。しかし、ほとんどが高速道路だった。往復6000円。今思えば、もったいない。これからは一般道を走ろうと決めた。××××数ヶ月後、その高山へ行くことになった。かつての仕事仲間の飲み会の案内がきたのだ。日時は今年(2017年)の4月某日。「よい時期だ。その頃はブナカイガラタマバエの発生期ではないか。行く途中で調べることが出来る」と嬉しくなった。と言うのは次のような経緯からである。ブナカイガラタマバエは25年前に岐阜県北部のブナ林で突然大発生した。しかし、大発生はその年だけ。その後全く姿を見せないのである。どこで眠っているのか。常に気になっていた。そのせいか今年の初夢に再び大発生したブナカイガラタマバエが出てきたのである。目覚めたときはがっかりしたが、夢は正夢と言うこともある。ひょっとしたら大発生の前兆ではないか。そんな気がしたので、この虫を探してみようと思っていたからである。予定を組んだ。勿論一般道で行くコースだ。早朝に出て、郡上八幡町まで行き、ここから「せせらぎ街道」を走る。その途中、西ウレ峠のブナ林でブナカイガラタマバエを調べ、その後高山へ向かう。夜はおいしいお酒を飲みながらの歓談。充実した一日になると思った。そして当日。晴れやかな気分で出かけた。西ウレ峠へ着いた。ブナの新緑が鮮やかであった。そのブナの葉を調べた。しかし、いない。いくら探しても見つからなかった。正夢ではなかった。そんな予感はしたものの、少々落胆した。××××結局、悔しい思いで、高山へと向かった。しかし、運転席から眺める景色は新緑が鮮やかで、快適なドライブとなった。しばらくしたら赤い旗が目に入った。「しまった」と思ったものの、後の祭り。スピード違反の取り締まりに捕まったのである。「35キロオーバーですよ。30日間の免許停止ですね」と取締官は免許証を求めた。「あなたは後期高齢者に近い老人なのにこの速度。暴走老人ですよ」と笑いながら言われた。暴走老人。自分でも笑えてきた。そして「ただ、あなたは免許証がゴールドなので、講習を受ければ免停は1日ですみますよ」と言われた。「よかった」と思った。しかし、気になるのは罰金。いくらなのか聞いてみた。「それは裁判所が決めます。ただし、その前に講習を受けて試験に受かることが前提です」と言われた。暗い気持ちで飲み会会場へ行った。宴会がはじまった。昔話に花が咲く。そのうちに、今日のスピード違反の話をした。すると○氏は「その歳で35キロのスピード違反。暴走老人だ。罰金10万だな」と茶化した言葉。皆は大笑い。同情するものはいなかった。自分が酒の肴となり、宴会は大いに盛り上がった。××××自動車教習所で講習を受けた。受講者は8名。ほとんどが20~30代で、高齢者は私だけ。場違いのところへ来たような気がした。まず、試験官の挨拶。ここでは皆さんが、再び運転できるように教えている。落としてやろうなどの邪心は全く無いと話された。そして「高齢者の方は理解力が劣るので、同じ説明を何回もします。そのような講習となることを承知しておいて下さい」との補足説明。しかし、高齢者は私だけ。複雑な気持ちになった。講習がはじまった。説明が終わる毎に、先生は私を見て「わかりましたか、次へ進んでもよろしいですか」と念を押される。その都度、むっとしたけど「わかりまし▲5mmに満たない小さなブナカイガラタマバエ成虫た」。印象を悪くしては駄目だと思ったからである。試験は無事合格。1ヶ月後、裁判所から出頭命令が来た。罰金6万円だった。これは痛かったが、罪を犯した意識はなく「運が悪かっただけ」。これが本心だった。しかし、二度と暴走老人にはならないと自分に言い聞かせた。考えれば今回のこの騒動?は20数年間眠り続けているブナカイガラタマバエが目覚めているかどうかの確認だった。しかし、相変わらず眠り続けていた。逆に目覚めたのは10年間熟睡していた私の交通違反。これはブナカイガラタマバエと同じように眠り続けて欲しいと思った。それと今回の高山行きは高速料金6千円を節約するのが目的だったが、結果は6万円もの出費。思わず笑えてきた。MORINOTAYORI 8