ブックタイトル森林のたより 768号 2017年10月

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概要

森林のたより 768号 2017年10月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ダイモンジソウ146秋の一日、家族でカヌーとカヤックに乗って長良川を下りました。カヌーを始めるまでは、「川や河川周辺の自然について充分に知っている」と思い込んでいた私ですが、実際に体験してみると今まで見たこともない視点で魚や野鳥を観察でき、水の流れ方や河川沿いの植生に感動の連続でした。川岸からは近づけない激流の大きな岩にカヌーで近づくと、何株ものダイモンジソウが花を咲かせていました。ダイモンジソウ(Saxifragafortunei)は白い花を咲かせる姿から、別名ユキモヨウ(雪模様)とか、渓谷の岩場に生えて葉が小型のフキに似ているとしてイワブキ(岩蕗)とかガケブキ(崖蕗)とも呼ばれています。和名は5つの花弁のうち上側3枚は短く、下側2枚は左右に大きくて長く、これが漢字の「大」の字に見えることに由来しています。同じユキノシタ属のジンジソウ(人字草:Saxifraga cortusaefolia)は、花弁が「人」の字に見えることも有名です。学名のSaxifragaは「saxum(石)」と「frangere(砕く)」による造語で、ユキノシタ属の植物の多くが岩の割れ目に生えるためとか。西洋では腎臓の結石を溶かすのにこの葉を煎じて飲むためとか諸説あります。種小名のfortuneiは植物採集家として有名な「R.Fortune(フォーチュン)さん」を意味します。ダイモンジソウは日本でも山間僻地では民間薬として重宝され、秋の開花中に葉を採取して乾燥させて、煎じて利尿や便秘、浮腫などに服用したそうです。また生葉はアクが少なく、サッと茹でてゴマあえやクルミあえ、ワサビあえ、酢の物などにしてシャキシャキした歯ざわりを楽しんだり、天ぷらにして美味しく食べたりすることができます。ダイモンジソウは日本各地の渓流沿いや、湿気の多い岩場などに自生する草丈は10~30cmの常緑宿根草です。葉は腎臓形または心臓形で、葉縁は掌状に浅く5~12裂し、裏面は白色か紫色を帯びています。また葉の表面には粗毛が生えるのが一般的ですが、粗毛や葉の形、大きさには変異が大きく、ミヤマダイモンジソウやウラベニダイモンジソウなどさまざまな種類があります。ダイモンジソウ類は基本的に初秋~初冬に開花しますが、エチゼンダイモンジソウ(S. acerifolia)は春~初夏に、高山性のミヤマダイモンジソウ(var. incisolobata f.alpina)は真夏に開花します。さて激流の岸壁で見たダイモンジソウ。直射日光を避けるように北側一面に着生しており、一つの岩の中ですみ分けをするダイモンジソウに気づかされたのです。▲白い花弁が「大」の字に見えます。MORINOTAYORI 4