ブックタイトル森林のたより 771号 2017年12月

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概要

森林のたより 771号 2017年12月

-音色でおいしいビール、コオロギ-【第317回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira前回お話しした孫のチビちゃんたちが飼っているトカゲ。餌は生きている昆虫や蜘蛛なので、これを与えなければならない。この餌を採るのが私の役目。チビちゃんのためだと毎日出かけた。「トカゲの餌だよ」、「ありがとう、お爺ちゃん」。この会話が何日も続いた。これが楽しみで餌採りをしているのだ。それが、いつからか足取りが重くなってきた。暑くなってきたからである。炎天下で汗だくになって、捕虫網を振る。これがきつい。虫好き人間の私でも嫌になってきた。他に方法がないかと考えた。ふと、外国の美麗トカゲを飼っているK氏が浮かんだ。餌はコオロギで、これを飼育で大量に育てていると聞いたことがあるからである。これなら毎日餌採りをしなくてもすむ。これだ。K氏に電話を入れ、飼育のコツなどを教えてもらった。これなら虫採りをしなくてもすむ。しかも効率的だ。気が楽になったとK氏にお礼。ところがK氏から意外な言葉。「野外で採った方が楽かも知れませんよ」。「え、どうして」と私。「飼育をはじめればわかりますよ」とK氏は笑って電話を切った。飼育を始めた。コオロギは日本にいないヨーロッパイエコオロギ(以下、コオロギ)。丈夫でたくさん卵を産むからだ。これをネットで100匹注文した。この間に飼育箱の準備。これは化粧ケースで代用し、蓋に小さな空気穴をたくさんあけた。そして、食堂(餌を食べる場)、水飲み場、身を潜める休憩場や産卵場などを作った。後はコオロギを入れるだけだ。××××コオロギが届いた。体長は5mmと小さい。老眼の私には黒い米粒のように映る。これを飼育容器に入れ始めた。ところが動きは素早い。それに飛躍力がある。移している途中で逃げ出すものもいた。おそらく30匹くらいはいたと思う。残り70匹。これを何としても親にし、卵を産ませなければと思った。コオロギは何でも食べる雑食性なので、ペットショップでスズムシの餌を購入し、これを与えた。すぐに数匹のコオロギが寄ってきた。しかし、餌を食べることなくすぐに物陰に身を潜めてしまう。この繰り返しであった。それが夜になると一斉に出てきて競うように食べ、水を吸っていた。毎日、餌と水の補給。これが私の日課となった。野外での虫採りよりはるかに楽であった。コオロギは食欲旺盛で、餌を与えるとあっという間に食べてしまう。コオロギは日に日に大きくなり、20日経過した頃から、鳴き始めた。日本のコオロギと同じような音色であった。しかし、狭い容器内。何十匹もの合唱となるとやかましく聞こえることもあった。××××コオロギのオスは鳴き声でメスを引き寄せ、愛が芽生えて結婚する。しかし、容器の中は騒々しい大合唱。ここでロマンチックな出会いが出来るのだろうかと、おかしなことを思った。メスは卵を産み始めた。産卵場には常に5~6匹が長い産卵管を突き刺して産卵している。これが何日も続いた。その産卵場を調べると無数の卵が産み付けられていた。ざっと数えても数千卵以上。これがすべて孵化して大きくなればトカゲの餌は大丈夫だと思った。卵は8月上旬頃から孵り始めた。2mmの小さな子供だ。それが1日100匹くらい産まれてくるので、あっという間に容器は満杯。その都度飼育箱を増やして12個にもなった。子供たちは食欲旺盛だ。よく食べ、よく水を飲む。しかし、これが不足すると死亡してしまう。餌やり、水の補給、飼育箱の掃除などをして管理した。それでも死亡虫は続出した。ひどいときは半数以上も死亡した飼育箱もあった。原因は水不足や共食い。餌や水のチェックを忘れた私▲産卵中のコオロギのミスであった。毎日12個の飼育容器の管理。きついと思うようになってきた。しかも、動きが素早い。わずかな隙間でもジャンプして飛び出すので、餌の取り替え時には気を付けて行った。それでも逃げられ、多いときは数十匹単位。これは大変だ。飼育より野外での餌採りの方がはるかに楽だと思うようになってきた。K氏の言っていたことが、この時理解できた。××××思いもしないことが起きた。お盆の頃から家の中でコオロギが鳴き始めたのである。台所、居間、2階からも聞こえてきた。これは飼育容器から逃げたコオロギが鳴いているのだと直感した。このコオロギは名前の通り家の中に住み、落ちている家庭ゴミを食べて生きている。しかし、飼育箱に比べ餌事情が悪いので、成長が遅い。この時期になってようやく鳴き出したのだと思った。家の中で聞くコオロギの音色は風情があった。暑い夜、コオロギの音色を聞きながらビールを飲んだ。味は格別。何日も喉を潤した。そのうちに鳴かなくなった。物足りなさというか一抹の淋しさを感じた。しかし、しばらくすれば今飼っているコオロギの逃げ出したのが鳴き出すはずだ。その時もまた冷たいビール、いやその頃は肌寒いので熱燗にしよう。部屋の片隅から聞こえてくる風情ある音色。それを聞きながら喉を潤す熱燗。おいしいだろうなー。MORINOTAYORI 10