ブックタイトル森林のたより 771号 2017年12月

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概要

森林のたより 771号 2017年12月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ユキムシ148「白子屋のお駒はんが舞っていますね」、12月のある日、冬の使者と呼ばれる雪虫が風に流され飛んでいました。京都では白く静かに飛ぶ雪虫を美しい女性の姿に例えて「白子屋のお駒はん」と呼んだのです。雪虫とはハマキアブラ属やワタアブラ属、ヨスジワタアブラ属、ゴバイシアブラ属など、蝋物質を多く分泌するアブラムシ科の有翅成虫を指す総称です。私たちがよく目にするのは、ケヤキヒトスジワタムシ(Paracolopha morrisoni)やリンゴワタムシ(Eriosoma lanigerum)、トドノネオオワタムシ(Prociphilusoriens)などです。一般にアブラムシ類は、春以降は雌だけで世代交代をする単為生殖によって増殖しますが、冬には受精卵を越冬樹木に産卵するため、翅(羽)を持つ有翅成虫が発生します。この有翅成虫の中には、蝋物質の綿毛を身にまとって風になびいて流されるものがおり、その様子が「雪」を思わせるため、雪虫と呼ばれるのです。綿毛の主成分は炭素数21~34個の飽和直鎖炭化水素で、他に少量の側鎖炭化水素(3メチル及び4メチルアルカン)を含んでいます。雪虫は体長5mmほどですが別名も多く、オオワタやシーラッコ、シロコババ、ユキンコとも呼ばれます。井上靖は小説『しろばんば』の冒頭で、飛び交うしろばんばを追いかけて遊ぶ子どもたちの姿を描いていますが、この「しろばんば」は伊豆地方の方言です。雪虫の一生についてトドノネオオワタムシを例に説明すると、4月に卵から最初の世代が孵化し、子虫はヤチダモの樹液や若芽の液汁を吸って育ちます。雌のみで雄のいないこの世代は30~50匹の子(二世代目も全雌)を産みます。ヤチダモの樹液を吸って成長する第二世代はすべて有翅虫で、初夏に次の寄生木であるトドマツの根元に向かって飛んで行きます。その後、トドマツの根元付近でアリ(蟻)と共生関係を保ちながらトドマツの養分を吸って、七~八世代目まで過ごします。この間、雨が少なく猛暑であると繁殖率が高まり、結果としてその年に見られる雪虫も多くなります。11~12月になると、成長した有翅成虫(雪虫)が白い綿毛をまとい、風の無い日の夕方にヤチダモ目がけて飛んで行きます。雪が降る前にヤチダモにたどり着いた有翅成虫(雪虫)は、すぐに約5匹の有性虫を産みます。この有性虫には緑色した雄と橙色した雌がおり、一年間のうち最初で最後である雄ですが、交尾のために生まれるため餌をとる口さえなく、一週間以内に交尾して死んでしまいます。雌は交尾後に樹皮の割れ目などに産卵して死に、越冬した卵が翌春、第一世代として再び現われるのです。▲トドノネオオワタムシの有翅成虫MORINOTAYORI 4