ブックタイトル森林のたより 772号 2018年1月

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概要

森林のたより 772号 2018年1月

-百聞は一見にしかず、トカゲ-【第318回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira前号で紹介したように今年の夏は、チビちゃんたちが飼っているトカゲの世話で振り回された。しかし、苦にはならなかった。チビちゃんたちと話しができたからである。時々、笑えるようなことを聞いてくることもあった。しかし、チビちゃんは真剣。子供の目にはこのように映るのかと、私自身勉強になった。猛暑日のある日のことである。5歳のチビちゃんが「お爺ちゃん、暑いとトカゲも水を飲むの」と聞いてきた。「飲むよ」と答えた。すると7歳のY君「川の水を飲んでいると、流されてしまわないの」。私は返答に困った。どこでどのようにして飲むのか知らなかったのである。「土の上や落ち葉に残っている水を飲むのではなく、なめているのだよ」と思いつきの返答をした。数日後、「お爺ちゃん、違うよ。トカゲは水をなめないよ。おいしそうに飲んでいたよ」とY君が言ってきた。まさか。と思ったものの、それを母親が写真に撮っていたので間違いない。Y君は暑い日が続いていたので、トカゲが可哀想だからと小さなカップに水を入れて与えたところ、すぐに飲み始めたという。私は口には出さなかったが「Y君、ごめん」と詫びた。百聞は一見にしかず。この言葉が脳裏に浮かんだ。××××そのY君が、今度は「トカゲも脱皮をするの」と聞いてきた。前にヘビの脱皮した殻を見たのを思い出したらしい。「するよ」と私。「ヘビのように脱け殻は残るの」と再度Y君。私はまたまた困った。ヘビの脱皮殻は何度も目にしているけど、トカゲは見たことがないからである。しかし、トカゲもヘビも同じ仲間。脱皮方法は同じだと思い、「残るよ」と返答した。8月中旬、Y君が「トカゲの皮がぼろぼろになっている」と言ってきた。トカゲの皮膚は半分くらいがはがれて落ち、残ったのが体に着いていた。脱皮だ。間違いないと思った。またまた間違った返答をし、Y君には申し訳ないと思った。4歳と3歳のチビちゃんも毎日トカゲを楽しそうに見ていた。しかし、二人とも女の子。Y君と見方が違う。「お爺ちゃん、トカゲと虫が仲良しになったよ」と言ってきた。静止しているトカゲの背中に何匹も虫が止まっているのである。これを見て仲良しになったと思ったらしい。この発想。女子のチビちゃんならではと笑えてきた。しかし、今まで餌となっていた虫がトカゲの頭や背中で休んでいる。野外ではあり得ないことだ。不思議だ。何故か。××××野外のトカゲは日当たりのよいところにいる。しかし、ここは冷房の効いた部屋。日光不足ではないかと思った。それから毎日2時間ほど直射日光に当てた。数日後、トカゲの背中で虫は見られなくなった。トカゲは日光不足で弱ってしまったのだと思った。これを見た4歳のチビちゃん。「トカゲと虫が喧嘩をしたのかなー」。その表情。本当に可愛かった。8月中旬頃から飼育しているコオロギが育ってきたので、これを餌に与えた。トカゲは口で捕らえてひと飲み。これ見ていた3歳のちびちゃんが「美味しそうに食べているよ」。そして4歳のチビちゃんは「3匹食べたけど、もう食べないよ」。すると「腹がふくれたのだよ」とY君。チビちゃんたちはこのような会話をしていた。確かにトカゲは1回に食べる量は1~3匹と少ない。しかし、2時間後にはまた食べはじめた。この繰り返しであった。だから野外のトカゲが動き回っているのは餌を捕るためなのだと思った。これもチビちゃんのお陰。また勉強させてもらった。コオロギは日ごとに大きくなり、8月下旬には2cmを越えた。小食のトカゲは1匹食べれば腹一杯になると思った。ところがそうではなかった。▲トカゲの子供逆に大きすぎて食べることができないのである。このためトカゲはたくさんいるコオロギの中から口に入るものを捕らえて食べていた。時々、大きなコオロギの腹を口にくわえようとする。しかし、コオロギは太い後足でトカゲを蹴って飛び跳ね逃げていく。トカゲの餌捕りも大変だと思った。××××9月中旬、「トカゲに触っても逃げないよ。慣れてきたの」とY君が言った。確かに背中をなぜても逃げないのだ。しかし、つかもうとすると素早く逃げ出すので、慣れてはいない。ストレスではないかと思った。狭い容器に4ヶ月も入れられているからである。それと餌を前ほど食べない。ひどいときは2日も食べないこともあった。コオロギが飽きたのではないかと思い、大好きな芋虫を与えた。それでも食べようとしなかった。動きが鈍い。このままでは死亡する。こんな予感がしたので、10月上旬、庭に逃がした。チビちゃんたちと見送った。トカゲは花壇の中へ消えていった。その後、チビちゃんたちは「トカゲは元気かな-」、「どこにいるのかな-」と口にしていた。半月後、鉢植えの下にトカゲの子供がいた。それを下のチビちゃん二人に見せ「これはトカゲの子供だよ」と教えた。すると「逃がしたトカゲの子供だね」と5歳のチビちゃんが言った。この純真な言葉。思わず私は「そうだよ。可愛いね」と答えた。MORINOTAYORI 16