ブックタイトル森林のたより 772号 2018年1月

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概要

森林のたより 772号 2018年1月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹正月とユズリハ149お正月用のマツの小枝を採ろうと出かけた山で、エゾユズリハを見つけました。エゾユズリハ(Daphniphyllummacropodum var humile)はユズリハの変種で、北海道~本州北部に分布する雌雄異株の常緑高木です。葉は長楕円形で厚く革質、表面は光沢があり、裏面は粉白色で、葉柄は赤味を帯びており、互生します。岐阜県内には福島県以西の本州、四国、九州、沖縄に分布するユズリハ(D. macropodum)もありますが、分布的にはエゾユズリハが多く、こちらは多雪地帯の林床で枝がよくしなり、粘り強いのが特徴です。同属のユズリハ、エゾユズリハ、ヒメユズリハは春から初夏に新葉が出揃うと、古い葉が一斉に落葉するため、漢字で「譲葉、交譲木」と書かれます。新しい葉が展開した後、古い葉が落ちるというのは、なにもユズリハに限ったことではありません。クスノキなどの常緑樹に多く見られる現象ですが、ユズリハは葉が大型で美しく、また新旧の入れ替わりが急激でよく目立つため、新旧交代の縁起物として、しめ飾りや鏡餅などに飾りつけられました。特に武家では、この葉が入れ替わる様子を子どもが成長したのを見届けた後、家督を譲る。つまり家系が途切れることなく続く象徴として、正月飾りに用いたのです。東京では昔、「お正月がござった。どこまでござった。神田までござった。何に乗ってござった。譲葉に乗ってゆずりゆずりござった。」と歌ったそうです。平安時代にはお盆や大晦日に祖霊が山から帰ってくると信じられ、大晦日の魂祭(たままつり)では、ユズリハの上に亡き霊への供物を盛ったことが「枕草子」に記されています。また日本各地には大晦日や元日に、餅や干し柿、豆、栗などの堅いものを食べ、歯の健康増進を願う「歯固め」の行事がありましたが、その食べ物の下にはユズリハの葉が敷かれていました。この様子も「枕草子」に記されており、かなり古い時代から縁起木として重用されていたことが分かります。ユズリハは有毒植物としても知られ、北海道ではエゾユズリハを食べた放牧牛が死亡や軽度のチアノーゼ、第一胃運動の停止、便秘または下痢などの中毒を引き起こしたと報告されています。また静岡県では注連飾りのユズリハを、藁と一緒に牛に与えたり、剪定したユズリハを牛に与えたりして、食欲不振や起立不能となった事が報告されています。さて、山で手ごろなマツを見つけられなかった私は、偶然見つけたエゾユズリハの枝を手に、帰路に就いたのです。▲厚く革質な葉と赤い葉柄が特徴MORINOTAYORI 8